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結晶ー9
「設楽、俺はお前さえ良ければ、この先ずっとお前と一緒にいたいと思っている。その為には、卒業するまでの間、お前とそういう関係になる事は出来ないんだ」
「……ばれないようにしても?」
「ばれない自信は無い。校内でお前を特別扱いしそうで、それも怖いんだ。今だってかなりギリギリのラインで踏み留まってんのに、これ以上お前を特別扱いするようなら俺は教師を続けるわけにはいかないし、それ以前に絶対周りに俺達の関係はばれると思う」
「真面目すぎるんだよ、先生は……」
涙が出るのは、悔しいからでも腹が立つからでもない。
嬉しいからだ。
大竹がそこまで自分のことを考えていてくれたことが、嬉しいからだ。
「……この先ずっと、俺と一緒にいたいなんて、プロポーズじゃんか」
涙を拭いながら、大竹の胸をドンと叩くと、大竹は「そうか?」と、再び頬を僅かに赤らめ、困ったように笑った。
「俺とずっと一緒にいたいからなんて言われたら、俺イヤだって言えないじゃん。ずるいよ先生」
もう1度殴ってから、大竹の背中に腕を絡みつかせて、ぎゅっと抱きしめる。
「卒業するまででも、キスはして良い?」
「それは俺もしたいな」
「卒業するまででも、毎週会ってくれる?」
「優唯の面倒、お前が見なかったら誰が見るんだよ」
「卒業したら、すぐに俺とえっちしてくれる?」
「言われなくてもするよ」
「卒業したら、先生と一緒に暮らしても良い?」
「だったらご両親にきちんと挨拶しねぇとな」
大竹は当たり前の事のように話しながら、設楽が落ち着くように背中を優しく撫でてくれる。
大竹に、愛されてると思った。
その手には、愛情しかないと思った。
大竹に愛されて、自分と一緒にいる為に、というのなら、1年半我慢するくらい何てことはない。
一生気持ちを告げられずに、ただ隣にいたいと思っていた昨日までと比べれば、その我慢はなんて贅沢な我慢だろう。
「卒業したら、一生俺と一緒にいてくれる?他の人なんて見ないで、俺のことだけ一生好きでいてくれる?」
泣きながら抱きつく設楽の背中を、大竹はしっかりと抱きしめてくれる。設楽の体だけではない、心まで受け止めてくれているのだ。
だが、どんなときでも大竹は大竹だ。
「それはお前次第だろ。大学行って社会人になったら、とっとと目移りするかもしれねぇじゃねぇか」
何て意地悪を言うんだろう。そんなことは、あり得ないのに。
「俺は先生以外もう好きになったりしねぇよ!先生が好きなんだ!先生みたいにクソ意地悪いくせに可愛い男が他にいるとも思えねぇし!言っとくけど、俺好きになると相当しつこいからね?何しでかすか知ってるでしょう?」
「はは、趣味悪いな、設楽。残念な奴」
ニヤリと笑う大竹の顔は、もういつも通りの『クソジジィ』で、設楽もまだ涙が溢れている顔を、笑いの形に歪めた。
「本当だよ。俺趣味悪すぎだよね。先生が可愛いとか、あり得ないよ。だから安心してよ。こんな趣味の悪い男が好きになるのは、あんただけだよ。一生あんただけだ」
ぎゅうっともう1度抱きついて唇を求めると、大竹はちゅっと音を立てて、啄むようなキスをした。
「そうか、奇遇だな。俺も趣味はクソ悪いんだ。気が合うな」
言葉とは裏腹に、大竹は幸せそうに笑い返してくれた。あんな先生の顔、初めて見た。
そうして2人は解け合う程激しいキスをした。
長く、深く、互いの境界線も分からなくなるような、激しいキスを。
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