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第33話

 理屈抜きにラウルに気持ちよくなってほしい。  乳しぼりで培った指づかいで、挟みつけるように鈴口を刺激した。強弱をつけて繰り返すうちに、さらりとした雫がしみ出してきた。  すべりがよくなるにしたがってしごき方が速まっていき、引きしまった腹にさざ波が走る。 「……くっ」  押し殺した声が耳朶を打つ。カイルはつられて上目をつかい、どきりとした。  漆黒の髪がもつれて、上気した顔を縁取る。うっすらと唇が開いて、熱い吐息を逃がす。男盛りの色香が匂い立つと、魅せられてやまない。  二十年来のつき合いだ。何十……何百通りもの表情をお互い知り尽くしている。ところが愉楽に浸っているさなかの表情は未知のもので、ラウルという本の新たなページを開いたように胸がときめく。  どこをどんなふうにいじれば、もっと悦んでもらえるのだろうか。  カイルは円を描くように(いただき)をこね回した。ラウル曰く「モニとは清い仲」。  ではラウルの恋人を気どっていたわりには、姉は知らないのだ。密やかにあえぐさまが凄艶だということも。活きのよい魚のように、ぴちぴちと跳ねるペニスの感触も。  両足が樹皮様のものに侵されつつあっても、なお、たくましい裸体が素晴らしく美しいことも。  これはラウルと、おれだけの秘密。  優越感を覚えると指さばきに加速がつき、持ち重りがするまでにペニスが猛る。ただ、ここで問題が発生した。連鎖反応を起こしたように、カイル自身のペニスもいつしか萌して、ジーンズの前が妖しく膨らむ。  うろたえ、カイルは前かがみになった。何はともあれ怒張をあやすのに専念しよう。そうだ、それが一番だ。  ふと閃いて、を掌で包んだ。皺を伸ばしてみたり、こりこりした珠を撫で転がしてみたりしているうちに、指が雫にまみれた。  好奇心に駆られた。人差し指を舐めて味見をする。しょっぱい、と呟くと、ラウルがとろりとした目で睨んできた。 「おれ、上手にできてる……?」 「くそ、訊くな。まったく、こんな芸当をどこで憶えてきたんだ」  額を指でピンと弾かれて微笑(わら)う。よかった、満足してくれているらしい。  だが昂ぶりが脈打つのにともなって、カイルのそれも張りつめていき、蜜をはらむのは困りものだ。身じろぎするたびに下着がべたつくあたり、恐らくとんでもないことになっている。  かたやラウルは入院して以来、禁欲生活を送っていたとみえて限界が近い。思い通りに下肢を動かせるなら、快感の波が押し寄せてくるたびに、足をくの字に立てたり、閉じたり開いたりしていただろう。  かなわず、上体をひねる。(うね)のように血管が浮き出し、その道筋に沿って撫であげると、内腿がびくっと震えた。 「手を、離せ……」  そ知らぬふりで、むしろ握りなおす。つたなさを熱意で補い、いっそう濃やかに猛りを慈しむと、指を跳ね返す勢いでしなった。  と同時に鈴口が広がったように見えて、弾けた。   白濁が、顔にまともにかかった。それでもカイルは、最後の一滴まで搾り取るように指を動かしつづけた。  ラウルは、精が蜂蜜色の髪をつたい落ちるさまをぼんやりと眺めていた。我に返ったように、荒い息づかいにわななく口許をこすると、舌打ち交じりに腰をくねらせて前にずれる。  そして、はち切れそうになっているジーンズの中心をまさぐった。 「おまえのも出せ。同じことをしてやって、おあいこだ」 「お、おれはいい!」    カイルは内股気味のへっぴり腰で、脱衣所に逃れた。一目散に自室に駆け込む。  胸の小鳥が狂ったように飛び回り、扉を閉めるなり(くずお)れた。ねばねばする前髪をかきあげて、青臭い匂いを放つ両手を見つめた。 「おれ、すごい、すごいことした……」  今さらながら全身が震えだし、その一方でかつて味わったためしがない達成感に酔いしれる。  ひとつ残念に思う。参考までに、とでも称して、市村から〝男同士の性交〟のやり方を詳しく聞いておけば、ラウルをもっと愉しませてあげられたはず。  曲がりなりにも絶頂に導いてあげられた証しが、掌に生々しい。生乾きになってこびりついているものに舌を這わせると、腰がもぞついて、ペニスがじんと疼く。  ジーンズと下着をひとまとめにずり下ろす。糸を引いて、明かりを反射した。ペニスを握ると瞬く間に達し、ふたりの体液が掌で混じり合う。 「ラウル……」  我ながら恐ろしく甘ったるい声がこぼれ落ちて、おののいた。後始末をすませるのもそこそこに、ベッドにもぐり込む。  ラウルに恋をしている、と指摘されたさいには言下に否定した。だが実際に、いつの間にか恋が芽生えていたとしたら……?  故郷の村では男も女も二十歳(はたち)かそこらで結婚するのが普通で、恋の種類はひとつきりだった。  仮に……そう、仮にだ。女を好きになる意味でラウルが好きだ、と彼に告げたら、どんな反応が返ってくるだろう。  馬鹿は休み休み言え、と一笑に付されるのがオチだろうか。きっと、そうだ。  跳ね起きて浴室に急ぐ。ラウルは自分で着替えることにこだわるから、うっかり見過ごしていた。膝の上まで樹皮症が勢力を伸ばしているようでは、下着を穿くのも大仕事に決まっている。  二度と俺に触れるな、と罵倒されるかもしれないが、土下座してでも躰をふくのを手伝わせてもらおう。  唇をもういちど舐めた。恋愛感情云々はさておいて、は熟成した羊乳酒さながらまったりとしている。  独特のえぐみも味わい深くて病みつきになりそうだ、と笑む。

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