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第41話

  「寒くて。一緒に寝てもいいかなあ」 「いい年して、甘ったれたことを言うな」  と、呆れ顔を向けてきながらも上がけをめくり、枕を壁のほうにすべらせる。つづいて自分自身が横にずれるにも今や腕の力が頼りで、下肢はあとからついてくる恰好だった。  カイルは凛と背筋を伸ばして敷居を跨いだ。蜂蜜色の髪が天井灯にきらめき、悲壮な決意に満ちた顔を彩った。  ベッドの手前でいったん立ち止まる。深呼吸ひとつ、えいっ! と、もぐり込んだ。 「なつかしい。ガキのころは、三日に一回はラウルの家に泊まりにいってたね」 「必ずモニがくっついてきて、狭ぁいベッドで川の字だった……」    と、なつかしそうに目を細めるはしから、忌々しげに舌打ちをする。  カイルは向こう向きに寝返りを打つそぶりを見せるラウルの肩に手をかけると、仰のいて横たわるふうに引き戻した。  すかさずラウルに、ただし彼に体重をかけすぎないように加減して馬乗りになる。それから膝で胴体を挟みつけておいて、寝間着のボタンを外しにかかった。  胸がはだけて、それはラウルにとっては思いもよらない展開だろう。  彼が呆気にとられているうちに、カイルは足下側にいざった。下着とひとまとめにズボンをずり下ろすと、ひとまず太腿にちんまりと尻を載せる形に落ち着いた。 「寝ぼけてるのか、何をおっぱじめた」 「おれ、ラウルとつながりたい」  切々と訴えるのももどかしく、茂みの中心に手をかぶせる。今はおとなしやかにあるペニスを掬いあげて、軽くしごいた。 「つながりたいだと? おまえはこのあいだから変だぞ。誰かに入れ知恵でもされたのか」  などと、しかめっ面になると強靭な筋力にものを言わせて、カイルを振り落としにかかる。  カイルは今度はむこうずねを跨ぐふうに躰をずらした。上体を前に倒し、股間に顔を伏せていくと、柔毛が顎をかすめてこそばゆい。  穂先が唇に触れるとにわかに怖じ気づき、だが伊達にソーセージを相手に特訓してきたわけではない。  第一、理屈もへったくれもなしにラウルを口で愛してあげたい。  早速、先端をひと舐めした。羊の乳でこしらえたチーズのように舌ざわりはなめらかで、微かに麝香のごとくそそられる香りがする。生理的な嫌悪感はたちどころに失せて、尖らせた舌で鈴口をつついた。 「馬鹿! 商売女みたいなことをするな!」  前髪を鷲摑みに、力任せに引きはがされそうになった。食んで、機先を制する。  (いただき)にちろちろと舌を這わせるにつれて、あくまで抵抗するか、好きにさせておくか、と葛藤する気配が伝わってきた。    ──焦らして期待を高めること、緩急をつけて煽ること……。    淡々と語る声が耳に甦った。小さくうなずき、輪郭に沿って舐めあげていきながら、ところどころ強めに吸う。  むっくりと頭をもたげはじめると俄然、奮い立ち、脳天を引っぱたかれて逆にむしゃぶりついた。その存在を誇示しはじめたところでいったん唇を離し、ひれ伏した。 「一生のお願いだ。ラウルが欲しい」 「冗談言うな。おまえ、欲求不満なのか」 「そんなんじゃない、心の底からラウルとつながりたいだけだ。それで男同士でするときの具体的な方法を市村先生に訊いて……」    ソーセージをペニスに見立てて口淫の基礎を学んだことはもちろん、後ろで番うさいの極意を授けられたことに関しては、言わぬが花だ。 「そしたら模型……そう! 模型を使って教えてくれた」 「あの野郎。カイルが初心(うぶ)なのをいいことに、ろくでもないことを吹き込みやがって」    黒曜石のような瞳が剣呑にぎらつき、視線が車いすに流れた。あれを駆って今すぐ市村をぶちのめしに行ってやる、と険悪な表情が物語る。  それは可愛い弟分が毒牙にかかった、という純粋な怒りによるものなのか、あるいは市村に多少なりとも嫉妬している面があるのか。 「モニとはしたことないって、嬉しかった」  カイルは、ラウルをひたと見つめた。胸を突かれたふうに大きくまばたきをした彼に微笑みかけると、あらためて這いつくばった。  クルミ色に変じて、かさつく太腿をついばむ。モニは厭うたが、ラウルがラウルであるだけで何もかも愛おしい。  鱗状にひび割れた皮膚にまんべんなく潤いを与えるように丁寧に舐めた。

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