42 / 86

第42話

 それから胸に頬ずりをした。規則正しい心音が鼓膜を震わせるのに合わせて、胸の小鳥がさえずる。  ドラム缶ほどもある干し草の束を背負っても、ふらつきもしなかったころに較べると若干、たるんだ感がある。それでも胸板の硬さは(はがね)のそれだ。  これが最初で最後だろうから、五感のすべてでラウルを味わいたい。へそを撫で、腋窩に埋めた鼻をひくつかせる。乳首を唇の上下で挟むと、 「女にすることを、するな。くすぐったい」  うなじをつねってくる。カイルは目に涙を浮かべて懇願した。 「おれ、自分で全部できる。ラウルに手伝ってもらわなくても大丈夫だ。だから……」 「わからず屋め。もういい、勝手にしろ」  根負けしたというより、多分にほだされた。ため息交じりに手枕を()って、横を向いた。  今さらめいて緊張してきて、手も足もふわふわと頼りない。カイルは膝立ちになったものの、へたり込んだ。  カーテンの合わせ目から月光がゆらゆらと射し込み、筋肉の連なりが美しい稜線を描くさまに彩りを添える。須臾(しゅゆ)、見惚れ、スプリングが軋めいて我に返った。  八の字に投げ出された足の間にしゃがみ、茂みに顔を寄せなおすと同時に、口に含む。  練習してきたことなど頭から消し飛んだ。それでも舌をふるふると舌を蠢かして、裏の筋を刺激する。猛ってくると喉をふさがれ、空えずきに悩まされる。  息がまともにできなくても夢心地だった。いつしか熱望という種が心の中に蒔かれて、それが芽吹いた、と本能が告げていた。  とはいうものの、ラウルのイチモツは並外れて大きい。それがいちだんと反り返ると、口からはみ出すようだ。  穂先が上顎を掃く形になると、吐き気が強まる。下手くそで、ごめん、とカイルは呟いた。涙目になって舌をつかい、しかし、そそり立つのはラウルが感じてくれている証し。  そう思うと自然と笑みがこぼれる。がんばって根元まで頬張り、吸いたてた。  おぼろげにだが次第にコツを摑みはじめたようだ。ハモニカを吹く要領で唇を震わせるとメリハリがつくかもしれない。  すぐに試してみると、ぴくぴくと跳ねて、顕著な反応が自信を与えてくれる。熱心にねぶるうちにほろ苦い雫がしみ出してきて、もちろん舌鼓を打った。  もっとも弟分に奉仕されるという構図には、如何(いかん)せん抵抗があるようだ。  ともすれば腰が逃げがちになり、穂先が天を向くふうに両手で屹立を支える。頭を上げ下げする一方で、ふぐりを撫で転がす。  つと睫毛をあげると視線がからんだ。  その昔、羊の毛の刈り方をラウルから教わったさいは随時、確認してもらった。そのときのように裏の筋を舌でこそげるたびにいちいち目で感想を訊ねると、ラウルが鹿爪らしげに咳払いをした。 「オムツを取り換えてやったこともあるおまえに、しゃぶってもらう日が来るとはな……。羊が狼を食い殺す以上の椿事だ」  喉の奥で笑うと、その振動が敏感な箇所に伝わった様子で、いっそう喉に攻め込んでくる。咄嗟に舌で押し返すと、頭上で微かな呻き声が洩れて、こめかみに手が添えられた。   たとえようもなく優しい手つきで前髪を梳きとられると、瞳が潤む。カリクビを甘咬みしてまぎらせるのと相前後して、子種の(ぎょく)がせりあがった。 「おい、離れろ」  狼狽をにじませて声がとがり、逃げを打ちにかかる気配に上体が波打つ。  かまわず、吸いしだく。ずりあがろうとする腰の動きに、快感を求めるふうな円を描くものが加わり、反射的に頬の内側を狭めると、怒張がぐんとしなった。  雫がにじんでくるのを待ちきれずに、(くだ)をひしぐように根元から舐めあげるのにともなって、爆ぜた。  水脈を掘り当てたように迸り、喉を直撃したものは独特の粘り気がある。  熱い、とカイルは思った。喉から胃にかけて、発火したように熱い。濃厚な味にむせ返りながらも飲み干すと、頬が薔薇色に染まる。  狼の牙をまさぐって、ほうっと息をついた。病院中……いや、街中に吹聴して歩きたいほど誇らしい。  やった! ラウルを最後まで口で愛おしんであげられた!

ともだちにシェアしよう!