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第43話

 と、股間に手がかぶさってきて縦に動く。 「俺につられて勃ったのか? スケベだなあ、脱いじまえ」 「恥ずかしい、嫌だ」 「恥ずかしいだと? そいつは不覚にもイカされちまった俺の科白だ。で、市村から他にどんなことを教わってきたんだ」    ズボンの前立てをつままれると、はしたなく腰がもぞつく。生唾を吞み込む音がこだまし、いちど放って萎えるどころか、それは再び硬くなりはじめている。  番える、と呟くと、妖しいおののきが背筋を駆け抜けた。カイルは毛布をかき寄せて、その陰で寝間着のズボンと下着を脱ぎ捨てた。  ケチるなと、とがめるふうに睨まれたとたん、さもしげに後ろがひくつく。  ただし不安をぬぐいきれない。事前に念入りにほぐすこと、との教えに忠実に従って風呂に入るついでに準備をすませておこうとした。  ところが何度挑戦しても、花芯は頑なに指を拒む。かといって指をこじ入れたばかりに傷を負って、今夜中にいわゆる本懐を遂げそこねたら本末転倒だ。  結局、ぐるりを揉むにとどまったが、なんとかなる。自分を励まし、毛布を腰に巻きつけたままの恰好で、あらためてラウルに跨る。 「目をつぶってて」  瞼に指をあてがって語勢を強める。渋々という体で応じてくれるのを待って、膝立ちになった。隠し持っていたチューブの蓋を弾き飛ばし、潤滑剤を指に塗りたくった指で襞を解き伸ばす。 「……ぅ」 「おい、今度はなんの騒ぎだ」  目が開く寸前、枕をかぶせて視界を遮った。 「後生だ、言うことを聞いて」  のけようとすれば押し当てる、というぐあいに枕をめぐって攻防戦を繰り広げたあとで、毒づく声がくぐもった。  ふて寝しかねない様子のラウルに、ごくごく小声で謝る。だって、をほぐしているところを見られた日には、即座に舌を嚙み切るようだ。  恐るおそる襞をかき分けると、うってかわって指がすんなりと沈む。楚々とした花は、ある条件がそろったときに限って咲く。  そう、ラウルとひとつに結ばれたい、と願ったときにのみ。  ともあれ潤滑剤を塗り込めないことには話にならない。気が急くあまり指づかいが乱暴になり、襞が軋む。落ち着いて、且つなるべく急いで、かき混ぜる。 「……ん、ん」 「くそ、もったいぶって性質(たち)が悪いぞ」    右から左に聞き流す一方で、無理やり人差し指を追加した。毛布がめくれて扇形に広がったが、うっちゃっておく。  市村先生はどうやって内壁を押し広げていったっけ? 確か……Vの字に指を開いたり、行きつ戻りつさせていたような。   入口にも内側にも、さらに潤滑剤を塗った。特に内壁にはあふれ出すほどに塗りつけていると、 「……魂消た、どえらい眺めだな」  枕の端から目が覗き、口笛が吹き鳴らされた。 「目をつぶってて、って言った!」 「悪い、うっかり忘れちまった」    ラウルはとぼけて頭を搔くと、チューブをひったくった。真面目くさって成分は何々と列挙していき、そのかたわら尻の割れ目をなぞり下ろした。 「つながりたいと言ったな。ここでか?」  いたずら小僧をたしなめる体で蕾をつねってくる。カイルは一拍おいてうなずき、うなだれた。  失敗した。何がなんでも浴室できちんと慣らしておいて、ラウルの部屋を訪ねしだい番うべきだった。 「馬鹿だなあ、市村に一杯食わされたんだ。そこそこデカい俺のが、こんなにちっちゃな孔に挿入(はい)りっこないだろうが。ほぉらな、指だって……あっさりかよ」 「ぅ、あ、わっ!」  びっくりした顔を見合わせた。実際、正しい鍵が鍵穴に差し込まれたように、指がするりと門をくぐる。  市村の指よりラウルのそれは長い。村で暮らしていたころは屋根の葺き替えも金だらいの穴をふさぐのも自分でやっていただけあって手先が器用だ。  探求心に富んだ指が道を切り拓いていき、深みをすりたてる。官能の在り処を、いとも簡単に見つけだす。 「ん……っ!」 「飼い葉に貝殻が混じっているみたいに、ここだけポチッとなってる」 「そこ……は……ぁ、あ!」  前立腺、と答えるはしからあえぎ声に溶け入る。くだんの突起をつつかれれば、つつかれるほどペニスが跳ねて、蜜がにじむ。  それは性に関する情報にとぼしい環境で育ったふたりには、信じがたい光景だ。 「女は、濡れるものだが……」  ラウルは咳払いで濁すと、効果のほどを確かめるように(さね)を再びこすった。一滴、また一滴と蜜が露を結ぶにつれて指づかいが執拗さを増し、喉仏が上下する。

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