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第44話

 カイルは強引に腰をあげると、ひとっ跳びにベッドの足下側に逃げた。〝準備〟をしているところを見つかって、穴があったら入りたいとはこのことだ。だ  がラウルを欲して内奥が(ほと)びる。頭から毛布をすっぽりとかぶり、暗がりの中で今いちど襞をめくった。自分で全部できると大見得を切った以上、有言実行といきたい。第一、あれ以上、核心をいじってもらったら感激のあまりぽっくりと逝く。 「こら、往生際が悪いぞ」  枕が飛んできたが、無視して指を動かす。  ラウルと契りたい。その一心で、可憐な花が咲き匂う。 「用意、できた……」  蓑虫さながら毛布にくるまったまま、三度(みたび)ラウルに馬乗りになった。後ろ手に雄を握ると、それは天を衝くという次元を通り越して、(ほしいまま)にふるまうのが待ちきれないと言いたげに脈打つ。  カイルは、はんなりと微笑んだ。腰を浮かせて、穂先を花芯に導いた。  そこで、すくみあがった。ぬるみに対して、角度はこれで正しいのだろうか。それでなくとも杭のように太いものを、ちゃんと吞み込めるのだろうか。 「震えてるくせに意地を張るな。つながるのは、また今度にしようや」 「これは武者震い。平気……できる」  できる、と重ねて言って(まなじり)を決した。亀頭が真上を向く形に手を添えなおして、しずしずと腰を沈めていく。  直後、窄まりに触れた。しかし慎ましやかなそこで交わるのは、針孔(めど)に荒縄を通すに等しい。  もう一方の手で尻たぶを割り広げて、しゃにむに迎えにいく。先端が曲がりなりにもめり込んだとたん内奥全体が悲鳴をあげ、 「ぅ、う、んん……っ!」  鉈で()ち割られるような激痛が全身を貫き、ペニスがうなだれた。蒼ざめた顔が悲痛にゆがむ。 「きっついなあ、折れちまいそうだ」  と、唸るのも道理。完全に(つか)えてしまってニッチもサッチもいかないありさまだ。 「これで懲りただろう、下りろ」  カイルはかぶりを振ると、大股開きに膝を深く曲げた。すると入口がわずかにゆるみ、さらに熱意に負けたのかもしれない。ラウルが自身を握って顎をしゃくった。  共同作業という展開になれば俄然、勇み立つ。ガムシャラに腰を落として招じ入れる。  圧倒的な量感の前に、襞が皺ひとつなく伸びる。それでも結ばれたいという気持ちが勝り、いっとうエラが張った部分が門をくぐれば弾みがつく。  一ミリ、また一ミリと雄渾が攻め入ってくるにつれて内壁にさざ波が走り、奥へ奥へとラウルをいざなう。 「ん、あ、はぁ、んんん、はぁ……」  舟を漕ぐように、上体が弓なりに反ったかと思えば前にのめり、蜂蜜色の髪が(くう)を切る。毛布がすべり落ち、(つるぎ)が鞘に収まっていくさまが、蠱惑的に見え隠れした。  そして、ついに契りおおせた。カイルは脂汗にまみれた額を手の甲でぬぐった。茂みがこすれて尻たぶがちくちくするのさえ、うれしい。  へその、そのずっと先までラウルに埋め尽くされたようで、胸の小鳥が高らかに歌う。  そこでハッと気づいた。刺し貫かれたあとはどういうふうに振る舞うものなのか、教わるのを忘れていた。  身近な例といえば羊の交尾。記憶をたどり、歯を食いしばって腰を揺らめかせると、収まりぐあいを調節した。そのうえで上体をゆるゆると倒していき、こめかみの両脇に手をついた。 「まいった、すげぇな、挿入っちまった」  すげぇ、すげぇ、と連発しながらラウルはもっちりと彼を包み込んだ後ろを撫でまわす。急に真顔になると、鼻先で揺れる狼の牙のペンダントを摑んだ。 「あれこれ世話を焼いてくれて、おまえには感謝してる。でもな、男と女がすることを代わりにやってくれと頼んだことがあったか」 「ごめん、ごめんなさい。理由はわからないけど、どうしてもラウルとつながりたくて我慢できなかった……今、最高に幸せだ」  息も絶え絶えに紡がれるそれは、素朴な反面、最上級のダイヤモンドより美しい告白だ。

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