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第45話
精悍な面 に朱が散り、ラウルはめったやたらに髪の毛をかきむしると、
「べつに怒っちゃいない。むしろ、おまえ相手にサカる自分に驚いてるんだ」
早口でまくしたてた。それから小刻みに震える肢体にとっくりと視線を這わせると、肚をくくった様子だ。
包皮に隠れてしまったペニスにやおら手を伸ばし、ためらいを吹っ切ったふうに握り、
「さわっちゃ駄目だ、おれ、全部ひとりでできるって言った!」
腰を引き気味にするカイルを射すくめておいて、ひとしごき、ふたしごきする間も、硬直が催促がましげになおも遡る。
体 を入れ替えて主導権を握りたくても思うに任せない。弟分に組み敷かれているという状況が癪にさわるとみえて、切っ先が最奥をうがつ。
荒々しく双丘をこねる。
「ん、ぁ……おれのなか気持ちいい……?」
「悪くない、わかるだろうが」
現に昂りは、ますます荒ぶる気配を見せる。
隘路が熱塊になじみはじめるにしたがって、痛みが徐々に薄らいでいく。カイルはそれを待ちかねていくぶん腰を浮かせると、ぎこちないなりに律動を刻みだした。
花びらがめくれあがり、雄蕊 が姿を現すのにともなって、ぐちゅり、と淫靡な水音がくぐもる。耳朶を打つその音に、ラウルと睦み合っているという実感が湧く。
頂 が肉の環を押し分けると内臓がせりあがるようだが、倦 まずたゆまず腰を打ち振る。
「っ、ふっ、ああ……っ!」
あやされる一方だったものが、やおら逆襲に転じて実 を突きのめす。内壁が怒張にじゃれつくと、細腰を支える手に力がこもり、強制的に一時停止にもっていく。
「おんぶに抱っこは性に合わない。交替だ」
ラウルは重々しく宣言すると、自身を軸に、ただしぎくしゃくと半身を起こした。しなだれて抜き身を搦めとりにかかる動きに抗い、えぐり込んでは退く。
「ラウ、ル、ああ、そこは嫌だ……っ!」
「ここが、どうした……ああ、あれか」
この突起をいじると、ペニスがさめざめと泣き濡れた。記憶に新しい情景に征服欲をかき立てられた様子で、双眸がきらりと光った。
「ぅ、ああ……あああっ!」
カイルは、脊梁がベッドと水平になる寸前までのけ反った。その一点を狙い撃ちにされると瞼の裏を閃光が走って、陽根をもてなすどころではなくなってしまう。
「危ない、しがみついていろ」
ぐいと抱き寄せられた。しかし勢いあまって、もつれ合って床に転げ落ちそうになった。
ラウルが壁に背中をもたせかけて足を投げ出し、カイルがあらためて躰をつなげる。いたわり合い、悦びを分かち合うさまは、厳粛なものさえ漂う光景だった。
ラウルと永遠にこうしていたい。カイルは抜き差しを繰り返しながら冀 い、だが限界が訪れる。
官能の中枢に波状攻撃を仕かけてこられると、快感という火花が飛び散る。重なり合った腹の間でペニスがひしゃげ、そこに淫らな摩擦が加わると、遙かな高みにさらわれていくようだ。
「ん、ぁああ……変だ、おれ変だっ!」
「カイル……くっ」
スプリングが派手に軋み、ふたりひと塊になったシルエットが前後左右に揺れながら壁を舐める。猛りが雄叫びをあげて攻め込んでくれば、熟 れた粘膜がまといつく。とめどもなく蜜が吹きこぼれて、抽送をよりなめらかにした。
乳首が尖り、寝間着にぽちりと浮き出す。それをつままれた瞬間、トドメを刺された。
「ぁあああ……ん、んんんっ!」
ペニスが爆ぜて、精をまき散らした。やや遅れて欲望が解き放たれて、最奥が潤 びる。
〝ラウル〟が全身にしみ渡っていくようだ。こつんと額をぶつけて、声もなく抱き合う。
恍惚とした表情 が互いの瞳に映り、自然と唇が触れ合わさるまぎわ、ラウルが横を向いた。
その数時間後、カイルは、すやすやと眠るラウルの枕元につくねんと座っていた。狂おしく貪り合った余韻が色濃く残り、指一本動かすのも億劫だ。
未だにラウルが留まっているように花芯が甘やかにうねり、しかし囁き声は苦い。
「おれ、女に生まれてくればよかった。ラウルの赤ちゃんを産んであげたかったな……」
真珠の涙がひと粒シーツにしたたり落ち、寝息がたちまち乱れた。しゃっちょこばって見つめる先で、モニ、と唇がやわらかく開閉した。
あたかも胸の小鳥が羽をへし折られたようだった。悶々と一夜を明かし、それでもラウルが車いすに移るときは、にこやかに肩を貸す。着替えるのを手伝っているさいにうつむくよう促されると、進んでそれを銜える。
以来、タガが外れた。仕事から帰ってくるなりベッドに引きずり込まれるのは序の口で、夜中に叩き起こされて朝まで……ということさえあった。
ラウルが愛慾に溺れるさまは、短い命を燃やし尽くす蝉を髣髴 とさせた。
身体的理由で受け身の立場に甘んじざるをえないが俺は男だ、と叫ぶように。
二月下旬、ラウルの腰部は切り株のごとき塊と化した。
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