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第56話

「夜中に悪戯するかもしれないが、男の習性だ。大目に見ろ」  こんなふうに遠回しに懇願されたら拒めっこない。  カイルはベッドに横たわり、ただし端っこで小さくなった。ラウルと床を共にするのは最後に求められた日以来のことで、一旦そうと意識すると萌むものがある。  節操なし、と自分を叱りつけて手足をいちだんと縮めた。心に傷を負ったラウルの横で、深々とつながれた記憶をたぐって躰を熱くするのは、彼を冒瀆することだ。 落ちる寸前までベッドの端に寄ると、うなじをくすぐられ、後ろ向きに腕をばたつかせたところに重みが加わった。 「おまえは、あったかい。おまえは、凍えた俺を温める……」  秘めやかに囁きかけてきて腕枕に落ち着く。  おれなんかにすがりつくあたり、想像以上に打ちのめされている。あらためてモニに憎しみを覚え、首をねじ曲げると、こっちを見るな、というふうに頭を押し戻された。  素直に横を向く一方で神経を研ぎ澄ませる。寝間着の袖口が湿り気を帯びていき、(はな)をすする音がくぐもるたびに、ラウルを力いっぱい抱きしめて、彼をどんなに大切に思っているかを伝えたい、という衝動に駆られた。 カイルはそうする代わりに、ひと晩じゅう腕を貸しつづけた。

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