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第11話
「で、おっさんは未来から何しにきたんだ?まさか、俺様にタケ○プターでもプレゼントしに来た?」
軽口に軽く吹き出しながら、ジムはいっといてそりゃないなと自己ツッコミいれて、横に首を振る。
「人探しかな、会いたい人がいるんだ」
「へえ?誰?」
「親父……」
「ぶっはあ、マジでホントファザコンだよな、未来で死んでるのか?オマエの親父さん」
大笑いしながら、イーグルを顧みる。
イーグルは肩を下ろして頷きかけて、またやっちまったかと慌てるジムの顔を見返して舌を出す。
「生きてはいるよ。若い頃の親父を見てみたくてさ」
危険をおかしてくる意味があるのかないのか、まったくわからない。
だけど、会いたい。
あの人を知りたい気持ちでいっぱいなのだ。
「アンタの親父か。アンタに似てるのかな。カリストじゃなくて、このへんに飛ばされたってことは、医学生か」
この星ヴィーナスは、国家的に研究機関と大学を多く抱える学園都市でなりたっている。カリストとヴィーナスの繋がりといえば、医者になるまえの養成所みたいなものである。
「たぶんな。親父はたぶん20歳前後だから、まだ医学生だろうな。アンタ、医学生につてとかある?多分、オレアスにいると思う」
イーグルは何度か聞いている父親の学歴を思い返す。20歳前後まではオレアス大学という最高学府にいたはずなのだ。
「まあ、このへんは医学生が多いからツテもあるかもしれない」
少しだけ考えこみながら話す。
「カリストの人間なら分かるかもしれないな。五傑家のひとつ…………デューンの人間を探しているんだ」
地元では知らない者は居ないはずだった。
五傑家は今の政府にも一目置かれる5つの一族のひとつである。
知らないというカリスト人はいない筈だ。
「…………デューン?へえ、アンタの親父はデューンの一族なのか」
ぼそりとその名前を反復するように口にのぼせ、眉をギュッと寄せてジムはしばらく押し黙った。
知らないというわけではなく、どこか苦々しいような口調に、イーグルは慌てて目を開いた。
力を持つ者や権力があるものはは、それだけに憎まれる対象にもなり易い。
ずっとそれは心のどこかにちゃんと持ってはいた。
だけど。
……失念していた。
「ああ……そうだけど………。いや。アンタが、手を貸してくれないならそれでも仕方ない。……いい印象じゃないみたいだし」
慌てて言葉をかぶせると、ジムは暫く考え込むように顎の辺りを指で擦る。
「探してどうするんだ」
「……どうしたいってわけじゃない。ただ、遠くからでもいいから見てみたい。話がしたいってわけでもなくて……ね」
ジムは、じいっと探るような目つきでイーグルを眺めて、ベッドから体を起こして放り出した服を拾うと何気ない仕草で手にナイフを握る。
「もしかしたら、会わせてやれるかもしれねぇよ………」
「ホントか!?」
喜んで言葉を繋ぐや否や、ジムはグッと手にしたナイフをイーグルの喉元に押し当てる。
「イーグル、お前の親父がデューンなら、お前もデューンなんだろうな。お前の名前と誰に会いたいのか、嘘をつかずに言え」
喜んで油断していたとは言え、やすやすと刃物を押し当てられた事に彼は驚き、ジムの顔を見上げて深く息をついた。
「アンタ、イイ動きするな。確かに俺はウォーリア失格かもな。……俺の名前は、イーグル・デューン。会いたいのは、俺の父親、エルシア・デューン。 再従兄弟に作ってもらった機械で、35年くらい前の彼のいるところへ飛ばしてもらったんだ。年は微妙にずれたし、場所もずれてるかもしれない。 でも、折角だから探したいと思ってる」
迷いながらも、刃物を当てる男に全てを打ち明けた。
話を聞きながら、ジムはなんとも形容しがたい表情を浮かべて、イーグルを見下ろしていた。
「……よく出来た作り話だな」
ナイフを退けると、むっとするイーグルの顔を眺めて、金色の綺麗な髪を掴む。
「まあ、疑うのも仕方ない。まあ、俺だって、今は身分を証明するものはない。実際、会えるとは思ってないさ。遠くからでも見たいだけだ」
ジムは、ナイフを床に放ると体を伸ばして、掴んだ金色の髪を引っ張って一本引き抜いた。
「痛……えな」
「もし、俺が、デューンを狙う組織の一員だって言ったら、どうする?」
低い声で引き抜いたイーグルの髪を指先でもてあそびながら、不穏な口調でジムは耳元で囁く。
良くある話だ。
「……どうもしない。例えそうだとしても、37年後に俺も親父も生きているから、俺がどうにかする必要はないでしょ」
さっきまでの張り詰めた緊迫感はなくなったが、油断はならなそうな口調にイーグルは気を張り巡らせてジムを伺う。
「……確かにな。……そういえばお前、俺の頭の上に落ちてきたんだったな」
ぼそっと考え込むように呟き、つまんだ髪の毛をイーグルの目の前に翳す。
「DNA鑑定すれば、お前がエルシア・デューンの子供か、ほら吹きか……すぐ分かることだ」
「そりゃそうだろうけど、エルシア・デューンのDNAサンプルなんて、簡単に手に入らないだろう」
鼻息でひらりひらりと揺れる己の髪を見つめて、イーグルは不審そうにジムを見上げた。
会わせてやれるかもと言った言葉に嘘がなければ、接点はあるということか。
ま、いっか。深く考えても仕方がない。
イーグルは、ゆっくりと目を閉じて、それ以上考えることを放棄して眠りに落ちた。
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