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第17話
珈琲を淹れながら送られてきた画面に出た結果を見つめると、彼は暫く呼吸を止めて落ち着こうと近くにあった煙草を口にした。
99パーセントほら吹きだと決め付けて、結果は見なくても明らかなはずであった。
データーは、イーグルが99パーセント以上、エルシア・デューンと親子関係にあることを示唆している。
病院の医局で、機械にかけてきたデーターが送られてきたのである。
……タイムマシーン。 本当にそんなものがあるのか。
火を煙草に点けると、データー情報に間違いはないことを再度確認する。
使い古された鑑定方法に誤差はない。
「37年後の……」
俺の……息子だというのか。
言葉を飲み込み、エルシアは苛立った様子で灰皿へ煙草を押しつぶすようにして消す。
実感はわかない。……まったくわかない。
けれど、本当に息子なら、俺は全力全身全霊で可愛がって溺愛しているはずだ。
自分の性格くらい熟知している。他人には冷たいが血をわけた自分の息子を溺愛しないわけはない。
”優しくて、滅多に怒らない人なんだ”
絶対に、賭けてもいい、かなりの度合いで過保護に溺愛しているに違いないのだ。事実、弟に対して怒ったことは一度もない。
未来の俺、ゴメン…………で、すまねえな、すまねえよ。
俺の遺伝子なのだから、エルにも似ていて当然だ。
これは、罰なのか?
俺は、気持ちを封印していたのに。
目の前にエサちらつかせて、食いつくと罠だとか。いい加減、神ってやつは糞野郎だな。
苛立たしげに彼は立ち上がると、イーグルがまだ寝ているベッドへと向かう。
「起きろ」
ぐいっと肩を掴んで、激しいいきおいで容赦なく揺すって起こす。
……子供が生まれたということは、俺はこの弟への想いを断ち切ったってことだよな。
「………ん……グレン……」
と、眠たそうに目を擦って、恋人と見誤ったのか、一瞬戸惑ったようにイーグルは彼を見上げた。
そういや、こいつはエルの息子と付き合ってるとか言ってたな。俺に似てるとか。
普通に、複雑すぎるんだが。
こいつを未来に帰さなかったらどうなる?
……そしたら、いずれこいつは消えてしまうかもしれない。
こいつの母親に出会うことも愛することもなくなるとしたら、どっちにしろ……。存在が消えちまう。
俺からの記憶も消えるだろう。
ここに留まらせる意味はまったくない。
「鑑定の結果が出た。……エルシアに会わせてやる」
着ろと命じるように、エルシアは洗濯したイーグルの衣服をバサバサとベッドの上に撒く。
眠たげな目を擦っていたが、言葉の意味をさとりイーグルは表情を輝かせた。
「シャワー浴びたいな…………会えるなら。汚れたままだし」
イーグルはぼそっと呟くと、エルシアが振り返って肩を竦ませて浴室を指差す。
「まあ、プレオに寄ってからいくつもりだからな……さっさと浴びて来い」
「ん。やっべえー想像したら、勃ったー」
イーグルは頬を指先で掻いて、 ベッドから起き上がり浴室のドアへと入っていく。
その前に、アイツ変態息子だった。
未来の俺、……いい加減、育て方間違いすぎだろ。
「オマエ、オヤジさんに会ったらどーすんだ?」
シャワーを浴びた後、念入りに髪を手櫛で整えつつ、ちょっと緊張してる表情をしているイーグルは、彼の近くに向かう。
「見るだけでいいよ。でも、できたら、ハグしてオヤジの匂いをいっぱい吸う、あーちゅーできたらいいな。あと聞きたいことがあるかな」
答えを聞いて、彼は複雑な表情を浮かべてイーグルを見やる。
「……早く着替えろ」
イーグルは横暴だなと思いつつも、用意されたシャツとパンツを履き、着てきたのとは違うブランド物の上着に袖を通す。
結構金持ちなんだよな。まあ、ここは結構寒いし貸してくれるとか案外優しい。
「お前、ホント変態だよな、親父さん泣くぞ」
「……ん。そう思ってね、家出したんだよ。禁断の恋だもんね……切ない」
言葉をとめて肩をすくませると、イーグルは着ていた服からスティックのような機械と、財布を拾い上げてポケットに突っ込む。
彼はそれを聞くとぐっと眉を寄せた。
禁断の恋は切ない。
それは身をもって知っている。
「……やっぱ、息子なんだよな」
誰に言うでもなく呟くと、エルシアは天井を見上げてイーグルを置いて玄関へと急ぐ。
「早くいくぞ」
急かすような言葉が響いて、イーグルは慌ててエレベーターへと飛び込んだ。
聞いてみたいことがある。
俺は……きっと、あの人に……憎まれているかもしれないから。
あの時、抱きしめてくれた温もりを信じて、帰ってきたけれど……。
本心が……今でもつかめずにいる。
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