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第18話
乗り込んだ水色のエアカーは、革張りの車内に趣味の良いシートや小物が置いてあり、どこかの成金の車というような感じはしない。
洗練されたセンスのある車の内装に、イーグルは感心したように中をみまわして、運転席に座る男を眺めた。
言っては悪いと思うが、似合ってないな。
ジムの服装は、ブランド物を身につけているが、着方がどこか粗野で品を感じない。
自分の父親も同じブランドで、似たような服は着ているが、きっちりと着こなしていていつも洗練されている。
まあ、着方やセンスってのももあるのかもしれないけど、ジムにはまったくないと言える。
それに反して、車の内装はきっちりしていて彼のセンスとは違うので、なんだかちぐはぐな印象を受ける。
宙路を結構な速度で飛ばして運転する彼は、イーグルの視線に気づいたのかちらりと横目で見ると、
「37年後ってどんな世界なんだ。オマエには他に兄弟とかいるのか」
バックで掛かっている音を静か目にコントロールすると、首都の中心部から遠ざかるような進路をとる。
確かプレオは爆撃地に近いところだから、首都のはずれだったっけ。
「ああ、妹がいるよ。こないだ結婚した」
結婚式は感動したなあとか思い返すと、イーグルは横目でどうしてそんな話をするのかいぶかしむような表情で黙って運転するを見た。
まあ、無言も居心地悪いし、話題作りだろうか。
そんな気を使うタイプじゃなさそうなんだけどな。
「ふうん。…………オマエに似てるの?」
手元のハンドルを慣れた手つきで操作して、街を駆け抜けながら首を傾げる。
「妹は親父似かな。可愛いんだー。黒髪に綺麗な海の色の眼……」
「まさか………とは思うが、妹にまで手はだしてないよな」
思わず口を出たような彼の言葉に、イーグルは目を丸くするが噴出した。
「ぶ………はっ、何を心配してるの」
ないないと手を横に振って、イーグルは否定するとちょっと腕を組んで苦笑を浮かべる。
「俺が片思いしてたのは、親父にだけだよ」
窓の外を興味深そうに見つめるイーグルの表情を、運転のため窺うこともできずに彼は苛立ったように奥歯を軋ませた。
「俺さあ、子供の時、親父に『人殺し』っていっちまったことがあるんだ。母親が病気で死んで、医者だった父が母を救えなかったのがすごい悔しくてね」
ぼんやりとした口調で、過去を語るイーグルの言葉に、彼は軽く眉を寄せた。
イーグルにとってそれは、紛れも無く過去の話だが、彼にとってはこれから起こる未来の話に違いなかった。
「後悔している。その後も、親父は俺を責めることなく…………大事に育ててくれた。そんな、酷いことを言った俺に……何も弁解もせずに優しくあり続けた。 だから……さ、聞きたいんだ。若い時の親父に……。親父にとっての幸せって何か……って」
幸せは人それぞれだ。
彼には金もあり、それなりの名誉もある。
恵まれた環境に育ち、結婚してやがて訪れた不幸。その後の犠牲。
一体、若いときに彼は何が欲しがっていたのかを、知りたい。何を彼が犠牲にしてきて、そのうえでどんな気持ちで、
『大切な者の為に尽くすことは、幸せで満足に充ちた物だと思わないか』などと告げたのか。
それが少しでも分かりたかった。
エアカーは海岸線に沿うように走り、彼はフロントガラスに映る海を目を細めて眺める。
「幸せか…………ふうん。俺は、横に大事な奴乗っけてこうやって車を走らせてる時が一番幸せだな。そいつが喜ぶからな、特にここの海は、そいつのお気に入りなんだ」
聞かれてもいないのに答える彼に、可笑しそうにイーグルは笑う。
「それって意外……」
「そうか?どーみえてんだ、俺はアンタに」
可笑しそうに笑ってジムは、アクセルをぐっと踏み込む。
「何かもっと野心家かなって。いっぱい金欲しいとか、酒池肉林とか」
悪びれずに答えるイーグルに、ジムはふっと眉をあげた。
「俺も片思いしてんだよ。…………報われないけどな。そいつが横で笑ってくれたら、幸せなんだ」
「そっか……。アレだね、切ない恋してる同士なんだね。俺とジムは。まあ、俺は諦めたけどさ、ジムは報われるといいね」
運転席に座る彼をイーグルは励ますように、ぐっと指を押し出した。
彼は軽く驚いた表情を浮かべたが、ふっと困ったような表情で笑う。
「報われちゃあ、駄目なんだ……弟だからな」
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