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第5話

童貞拗らせ59歳、立派なアラ環になってしまったな。 足掻く小僧っ子が眩しくて仕方がない。 情熱などそのうち枯れてしまう、私のようにな。 私にとって息子とも孫とも言える年齢の若きαが、現在仕事以上に情熱を傾けるのは愛する者を見つけ出し、子孫を遺す事だ。 若き日の私の姿でもある彼に、懐かしさと悲哀の念を思い起こすのも仕方が無い。 最上級のαと言われて来たが、番を見つける事の出来なかった私は、完全に人生の負け組なのだ。 αが誠に能力を発揮する事が出来るのは、愛する番を得てからである。 どれだけ焦がれようと私には番が出来なかった。 人生の折り返し地点も過ぎてしまった私に出来る事は、この孫のような若者に無駄だと諭す事だろうか、それとも番探しを影ながら助力する事だろうか、はたまた傍観に務める事だろうか。 未だ答えは出ないが、他者の努力を笑うような真似だけはしたくないものだ。 そうなると無駄だと諭す事は彼の行動に制限を作り、負癖をつけかねないように思える。 私が諦めたからと言って、彼が諦める必要はないはずだ。 彼と私は別の人間なのだから。 ふむ、無駄な行為と切り捨てるのは得策と言えないな。 では、彼のΩ探しに影で助力するのはどうだろうか。 彼のプライドを傷付ける可能性がある。 余計な世話だと切り捨てられる可能性もあるが、形振り構わず格下のα達に頭を下げてΩを探している彼を見るに、案外これが正解のようにも見える。 最後に傍観に務めた場合、彼に番が見つかろうが見つからまいが、私の人生は変わらないだろう。 いや寧ろ彼に番が見つかった場合、愚かで醜い嫉妬心から私が何か愚かな行為を起こすのは、火を見るよりも明らかだ。 何も行動を起こさない者程、他者に嫉妬するのが人の心である。 どうやら私の選ぶべきは、彼の番探しに一枚噛む事のようだ。 己の中で答が出たところで、私は富裕Ωコミュニティではなく、下層Ωの集まるバーやその界隈に詳しい知人にΩの紹介を頼んだ。 だが、やはり分かる範囲内で聞きまわっても、そうそう見つかるものでもないな。 彼に何人引き合わせる事になるのか、それを考えると気の毒にもなる。 しかし、番を見つけると決めたのは彼である。 そう簡単にはへこたれたりしないだろう事は分かりきっている。 自分の事ではないが、少しワクワクと気持ちが持ち上がっている事に気付いた59歳男性α、独身、童貞。 タバコを燻らせ、窓の外を見つめるナイスミドルはシワの入った顔に優しい笑みを湛える。

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