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第16話
エリックと朝に別れて幸福の最中、自宅へと向かう。
強いαである彼の精を腹一杯納めて俺は最高に満たされている。
孕めないのが寂しくはあるが、俺にラットしてくれる最高のα。
40歳を目前にΩへの妬みも薄れてしまっている。
自宅の前で車から降りると、急な吐気と眩暈に襲われる。
日榊が発情期に入ったようだ。
俺は日榊の発情期に自宅に居る事は出来ない。
好き嫌いの問題ではないのだ。
エリックからは、まだ引き合わせてくれと頼まれていない。
今回の日榊の発情期は大丈夫だろう。
そう思って車に戻り、行き先を自宅とは別のマンションに向かう。
自宅から離れて幾分気分がマシになる。
せっかくの幸福感が台無しになったが、それでも胎を撫でればエリックの精とフェロモンを感じて腹立たしいのも霧散した。
エリックが俺の虜になればいいと思っていたが、やはり格の違いだろうか。
俺がエリックの虜となってしまっている。
いや、彼を本気で愛してしまっている。
そして彼に唯一として愛されたいと願ってしまっている。
彼が俺に完全にラット出来た事によって、俺は欲深く彼を求める気持ちが強くなった。
αとは元々欲深い生き物だ。
富、名誉、権力。
愛に対してもそうだ。
相手の全てを自分の物にしたい。
俺は徳川エリックだけが、心の底から欲しい。
エリックとの逢瀬から日が経ち、エリックの精がフェロモンだけを残して、胎内から全て出て行ってしまい少し寂しい。
俺は会いたいとメッセージを彼のスマホに送る。
だが、彼からは何日も返事が来る事は無かった。
日榊の発情期が終わり、Ωフェロモンが薄れた頃に、漸く自宅へと帰る。
まだ臭いが耐えられない程ではない。
そこに香る数人のαフェロモン、知らないフェロモンに紛れて、最近間近で感じ、俺の胎内からも香る同じ香りにハッとする。
彼はエリックは、俺と別れた後にどういうわけか、この家で日榊を抱いていたのだ。
俺は彼の唯一ではないと急激に理解させられる。
本物のメス(Ω)にはなれやしないのだと。
俺は家から背を向け、先程まで居たマンションへと引き返した。
プライベートスマホにメッセージが届いているが、見る勇気は無い。
いい歳したオヤジが恋愛に一喜一憂させられるなんて、嗤わせる。
自嘲しつつも、自ら彼に囚われていたいのも事実なのだ。
俺は自分の中の彼に会いたいと思う気持ちに行き着き、意を決してスマホを見る。
そこには『今夜会えないか』と、彼らしいシンプルな誘い文句があるだけだった。
俺はたったその一言だけで尻尾を振って彼に会いに行く。
彼は俺だけのモノにはならない、だが俺は彼だけのモノになる事は出来る。
いや、寧ろ彼が許してくれるのならば、彼だけのモノになりたい。
今夜抱いて貰えるのかなんて分からない。
それでもエリックに抱いて貰えたなら、それだけで幸せなのだ。
一途なアラフォー受け有馬宮榊、男性αは可愛いワンワン化。
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