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第一章 理由 2

「怒んないで下さい。ただ、真似をしただけです。」 「は?」 「だから、世間一般の貴方のような人に対する言葉を真似しただけです。僕の意見ではありません。」 ゴォッと風が吹いた。 飛び降りようとした際に靴を脱いでいた為、風が足を震え上がらせた。 「だから…」 青年は続ける。 「だから、死にたいなら、早く飛び降りて下さい。」 少しの間、沈黙が続いた。 「イライラするんですよね。」 切り出したのは青年。 「イライラするんです。死にたい死にたいって言うんだったら、早く死んで下さい。迷惑です。鬱陶しいです。」 ザァァ… 木を軽く揺さぶるような風が通った。 「…それは世間一般の俺に対する言葉?」 俺は青年に聞いた。 「いいえ、今のは僕自身の貴方に対する言葉です。」 青年の目はしっかりしていた。俺が何も言葉を返せないでいると、青年は続けた。 「僕はその場所に立った時何も思いませんでした。けど、下を見た時に恐怖を感じました。…多分、心のどこかで生きたいって思ってたんです。」 「え?もしかして…。」 「そうです。僕もさっきまで死のうと思ってました。」 そう言い自分を貶すように力なく笑った。 「でも、いざそこに立つと理由を見つけたんです。」 「理由?」 「ええ。生きる理由です。友人に借りた傘返してないなとか、今度飯奢ってやるって言われてたのに、まだ奢ってもらってないとか、最近気になりだしたバンドの曲まだ全部聴けてないとか、そんなちっぽけな事が、次から次に出てきました。」

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