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第二章 名前
【第二章 認識】
「狭いところですけど、どうぞ。」
「お、お邪魔します…。」
青年に着いて行った先は、彼が住んでいるというマンションの一室。外観からして高級そうなマンションは、エントランスもとても煌びやかだった。どうして就労していない高校生が、こんな所に住んでいるのか。さっき出会ったばかりでこう言った質問はあまりに不躾な気がして、聞きたい気持ちを抑えて彼に促されるままに、彼の部屋へと足を踏み入れた。
ガチャリ───。
背後から鍵を閉める音がやけに大きく響いた気がした。それを感じると共に、すぐに背後から彼の手が伸びてきて。ぎゅっと、抱き締められる。
「ああ、どうしよう…。」
耳元で響いた優しい彼の声に、ドクリドクリと心が鼓動する。
更に腕に力を込めて青年は続けた。
「あなたの名前を呼びたいけど、まだ知らないんだった…。」
彼の顔は見えないが、しょんぼりとしているのが声色から感じ取れて。可愛いな、と思う。
「本当だ、挨拶がまだだったね。俺は、日元環 。よろしくね。」
「環さん…。僕は、英優士 といいます。こちらこそよろしくお願いします。」
互いに向かい合ってぺこりとお辞儀をする。屋上での出来事を思い出し、なんだか今の状況が少し滑稽な気がして笑い合った。
「優士くんね、よろしく。」
「優士でいいです。」
「わかった。優士、いい名前だね。」
「….ありがとうございます。環さんは、見た目と同じでとても綺麗な名前ですね…。」
優士の手によって、顔が包まれる。急に変わった雰囲気にまたどきりとして。
「……ん…。」
合わさった唇の隙間から、甘い吐息が零れ落ちた。
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