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第二章 寂しさ 1

「環さん、眠い?」 「うーん…。」 「ふふ、可愛い。」 今日は色んな事があって疲れた。髪の毛をドライヤーで乾かしてから、2人で大きなベッドに潜り込めば、人肌の温かさを感じて。俺は触り心地の良いシーツに頬ずりをした。 この幸せな空気に心がポカポカと満たされて、自然と眠気がやってくる。 「一緒に住みませんか?ここで」 「えっ…?」 「環さん、ここにいて?」 「…っそんな、親御さんは…」 優士の唐突な提案に俺はそこまで聞いてはっとした。疑問には思っていたが、例えば両親が亡くなっている可能性だってある。不躾な事を言ってしまったと思ってももう遅い。 「僕の両親は僕の事これっぽっちも興味ないから。」 あっけらかんと答える優士の声からは少し冷たさを感じて。ああ、やってしまった、と思う。 「ごめん…。」 「どうして謝るんです?」 「だって…。」 「環さん、顔見せて?」 俯いて小さくなっている俺に優士はそう言う。俺が自ら顔を上げるまでもなく、優士の暖かい手によって顎を掬われて。 「僕は環さんに聞いてほしい。」 真剣な目でそう言われたから、俺は直ぐに頷いたのだった。 「僕の祖父は仕事熱心な人でした。プライドが高くて、ミスは許されないし、他人からの評価も高くないと生きてる価値がない。そんな考え方をする人でした。それもあってか、起業して成功して、会社を今の地位に築き上げた。」 そこまで聞いて心当たりがあった。 「もしかして、(はなぶさ)グループ?」 「うん、環さんも知ってるんですね。」 「当たり前だよ…!だって、あの英グループだよ?」 英グループは日本でもトップクラスの大企業だ。色んな分野は勿論のこと、海外進出もしてどれも成功を収めている。俺が就活をしていた年は入りたい企業1位だったし、実際に俺自身、会社の説明会にも行った事があった。そんな人気の企業を優士のお祖父さんが築き上げたなんて。 「凄い方なんだね…。」 「うん、本当に仕事一筋な人でした。そんな祖父から会社の跡継ぎになるべく英才教育を受けた父も、結果主義で。僕も経済的に支えてもらってるのは確かなんですけど、それ以外で親らしい事してもらった事がないんです。父が見てるのは僕の成績だけ。僕が何をしても成績が良ければ何も咎めないし、逆に学年1位以外の成績を取ると癇癪を起こしたように怒鳴るんです。」 「そんな…。」 「だから、そんな僕の成績しか見てないような父の側で暮らすのはもう耐えられなくて。僕は家を出たいって父にお願いしました。そしたら直ぐに『いいぞ。だが、必ず成績は1位を取るように。』って言ったんです。僕を止める事もなく、僕が家を出たいと言った理由も聞かずに。」 「……。」 「だから僕は、愛情ってものが分からない。」 その言葉に俺の心臓はずきりと音を立てた。 …そっか、優士は寂しかったんだ。愛してくれる人がいない、愛される事に飢えて。孤独に苛まれていたのだ。 「でも、環さんに会って僕は愛ってものを知る事が出来そうな気がするんです。…だからあなたと一緒に暮らしたい。」 そう言われたら直ぐにでも、うんと頷きたくなる。けれど、そう簡単にはいかないのが現実だ。 「少し、考える時間が欲しい。」 「すみません、我儘言って…。」 「ううん。話してくれてありがと。」 俺の顔を撫でていた手を掴んで、そこにキスを落とした。感謝の意を込めて。 するとそのお返しは唇に返ってくる。 「んん…。ゆうし…ふ、……ぅん…。」 「はぁっ、環さん…、もう一度、抱かせて…。」 「うん…。いいよ、何度でも抱いて。ゆうしが満足するまで、俺を使って?」 「…っ!たまきさん…っ。」 そうして、また俺たちは重なり合ってシーツの海に沈んでいくのだった。

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