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喫煙ルームに……篠がいる。 サッと壁の柱に隠れた。 「俺の勝ちだな。ホラ。寄越せ。」 「…………ん。」   もう一人いたのか…… 篠と同じ営業の……確か、岩木…… 篠は岩木に何かを手渡した。 「流石の篠でも無理だったか!」 「うるせー。」 「まさかノンケに手を出すとは思わなかったよ。」 なんの話をしてるんだ? …………? 「100発100中! 誰でも落とせる篠も…… ノンケの水谷は落とせなかった。 くくっ!賭けは俺の勝ち。 焼き肉の優待券、ゴチです!」 賭け……? 聞こえて来た言葉が理解できず、呆然としてしまう。 「でも……水谷、可愛い顔してるもんなぁ。 アレなら俺も抱けそう。」 岩木の言葉が頭をぐるぐる回る。 「抱けるわけねーだろ。 口も悪いし中身は全然可愛くないぞ。」 篠が言い放った。 ドサッ!バサバサ…… 持っていた資料とファイルを落としてしまう。 慌ててしゃがんで拾う。 「匕、ヒナ!」 篠の驚いた顔。 「水谷……」 岩木も焦ってる。 チャラい奴だとは思ってたけど…… こんな…… 人を弄ぶような事をするなんて! 無言で資料とファイルを拾い集める。 すぐに立ち上がって二人に背を向けた。 「ヒナ!待って!」 篠が呼びかけるけど聞こえない振りしてオフィスに向かった。 篠の視線を感じるけど、もう振り向かない。 …………何、今の。 なんだよ…… RRRR…… プライベートの電話が鳴ってる。 [着信 篠] 名前を見て電源を落とした。 …………からかわれてただけだったんだ。 賭けに勝つ為の演技…… あんなに優しかったのも…… あんなに甘かったのも…… 俺の事、大事そうに抱きしめたのも…… 全部。 良かったじゃん。 騙される前で………… ジワリ。 目頭が熱くなる。 …………悔しい。 なんで俺、泣きそうになってんの…… …………本当に全部嘘だった? あの笑顔も…… 温かさも……

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