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第2話

「それで……どうかな。私と遊んでくれるかな」 「遊ぶってどういう意味の遊び?」 「ふふ、どうだろうね? もしきみがやりたければチャンバラごっこでもいいよ。この刀、結構重いけど」 「……悪いけど、僕はそういう子供っぽい遊びには興味ないんだ」 「そう? じゃあもっと大人の遊びをしようか。そっちの方が楽しそうだ」 「一応言っておくけど、僕はまだ17歳だよ」 「17歳だと何か問題あるのかい?」 「……それを本気で聞いてるなら、あんた相当ヤバい人だね」 「ありゃ。もしやここでは17歳の少年に手を出すのはいけないことなのかな。下界の(ことわり)はいろいろ面倒だねぇ……」  やっぱり生活するならヴァルハラの方がいい……などと、意味不明なことを言っている男性。本当にこの人、頭大丈夫かと思う。 (……でも、悪い気はしないな)  伊織は腰に手を当て、改めて彼を眺めた。 「それで、あんた結局何者なの?」 「おや、興味が出て来た? それは嬉しい」 「いや、どうでもいいけど。でも名前くらいは聞いておかないと不便でしょ」 「フレインだよ。フランス語では『ブレーキ』という意味があるらしい」 「……へえ? じゃ『ブレーキさん』って呼んだ方がいいか」 「どちらでもかまわないよ。どう呼ばれようが、私は私だからね」 「…………」 「せっかくだから、きみの名前も教えてくれないかな。すぐ忘れちゃうかもしれないけど」 「……伊織」  こういうつき合いにおいては、ファミリーネームは不要だ。  必要なのはその場しのぎの名前だけ。源氏名のようなものだ。相手の「フレイン」という名も、どうせ咄嗟に考えた適当なものだろう。  どうせなら僕も「慎矢」とか適当な名前を使えばよかった……と思ったが、今更取り消しはできないので仕方がない。 「それじゃあ伊織くん、よければ私についてきてくれるかな。とっておきの場所に案内するよ」 「とっておきの場所って?」 「それは行ってからのお楽しみかな」 「へえ? でもそういうの、嫌いじゃないかな」  逃げてしまうこともできたが、あえて伊織は誘いに乗った。  このまま家に帰っても父さんはいない。一番いて欲しい人がいないのに、そんな場所に行っても虚しいだけだ。 (それに、少しは気が紛れるかもしれないし)  この虚しい身体の疼きを、少しは鎮めることができるかもしれない……。

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