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第7話

 やることをやった後も、フレインは伊織を置き去りにすることはなかった。 「お水飲む?」 「うん……」  差し出された水のペットボトルを一気に半分ほど飲み干す。ちらっとフレインを横目で見たら、彼は元の服に着替えながら櫛で金髪を梳かしていた。 「…………」  人と人との関係なんて、桜の花みたいなもの。淡く儚く、いつかは消えてしまうもの。  それならいっそ、最初からない方がいい。僕の心にいるのは父さんだけでいいのだ。  そう思っていたけど……。 「……フレインさん、これからどうするの?」 「もちろん帰るよ。あまり外出しているとアクセルに拗ねられてしまうからね」 「アクセル?」 「私の弟。とってもピュアで可愛いんだ。経験少ないからあまりハードなことはできないけど……まあ、そのうちね」 「…………」  なんだ、既にお相手がいるんじゃないか。  何かを期待していたわけではないが、内心ちょっぴりがっかりした。がっかりしている自分にも少し驚いた。 「……というかあんた、自分の弟とやってるの? 呆れたな」  憎まれ口を叩いたら、彼は小首をかしげて言った。 「おや。そういうきみも肉親に恋い焦がれてるんじゃないのかな?」 「……なんでそう思うんだよ?」 「昔の私と同じ顔をしていたからね。願っても叶わない相手に恋している顔。だから声をかけたくなったのかもしれない」 「え……」  伊織はまじまじとフレインを見つめた。彼は淡々と続けた。 「片想いは辛いよね。それが届かない相手ならなおさら。諦められれば楽なんだけど、そんな簡単に気持ちの整理はつかないし」 「…………」 「だから虚しさを紛らわせるために快感を貪るんだけど……そんなことしたって満足できるわけもない。求めているものが違うからね。根本的な解決をしない限り、心はずっと空虚のままだ」 「……フレインさんもそうだったの?」  そう聞いたら、彼は少しだけ苦笑いした。

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