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第16話 独占的 1-2

「いいよ」 「あ、うん、そうだよね。……えっ? いいの?」 「うん」  目の前で百面相しているその子を、なんの感情なく見ながら、どうせ早く帰ったところで鷹くんに会えるわけじゃない、と息をついた。行きたいわけじゃないけれど、暇つぶしだと思えば気が紛れるだろう。僕の気のない返事にも跳ね上がるように喜んでいるその子の名前は、さっぱり思い出せないけど。  基本鷹くん以外どうでもいい。興味ないし面倒くさい。友達? そんな付き合いするくらいなら鷹くんといたい。でも僕のこの気持ち、どのくらい鷹くんに伝わってるんだろう。いつも十回好きって言っても、返ってくるのはそのうちの一回あるかないかだ。鷹くんは本当に僕のこと好きなんだろうか。  嫌なことを考えてひどく胸が苦しくなった。外へ足を踏み出すと、吹き付けてくる風はやけに冷たくて、なんだか胸に出来た傷口がヒリヒリ痛んだ気がした。 「城野が来るなんて初だろう。うちの店に入って半年以上経つのに、いままで一度も誘いに乗ったことなかったよな」 「気まぐれでも嬉しいわぁ。南ちゃんが誘ったおかげかしら」  バイト先の店を出て駅前で待ち合わせの二人と合流した。前を歩くのはいつも賑やかしい印象のある男。兄の明博とつるんでいたやつらによく似た雰囲気がある。大きな声で喋り、大口を開けて笑う。普段からキッチンを覗かなくてもこの男がいるのがわかるくらいだ。二十歳を超えているらしいが、あんまり落ち着きがなさそうに見える。  その隣で澄ました顔をしている女は、地味目で控えめそうに見えて結構な仕切り屋。仕事中もあれこれとスタッフを手駒のように使っている。だけど派手さがないのが功を奏しているのか、真面目で頼り甲斐がある、などと言われている。それに対し謙虚に笑ってみせるが、眼鏡の奥にある目は結構強かだと思う。 「そりゃあもう、南川さんに誘われたら行きたくなるよな」 「谷崎くんは可愛い子なら誰でもいいんじゃないの?」 「佐々木さんひでぇなぁ。誰でもよくないって。やっぱり特別可愛い子じゃなきゃな、だろう?」 「……僕は付き合っている人がいるんで、興味ないです」  さも当たり前みたいな顔をして振り返るけれど、人の好みなど人それぞれ。相手に自分の好みを強要されても困る。

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