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第19話 独占的 1-5

 深々と下げた小さな頭を見ながら、思わず大げさに息を吐き出してしまった。よりにもよってこんな他人に関心のない男なんかを好きになるなんて、物好きにもほどがある。 「そ、そんなことないよ! 城野くん、無関心そうだけどすごく相手をよく見てる。人の機微に敏感だから、相手に嫌な思いをさせたことほとんどないし。自分が嫌なことがあっても顔には絶対出さないし、すごく気の回る人だってみんな褒めてた。城野くんは自分が思ってるよりまっすぐで誠実な人だと思うよ」  それはただ単に面倒なことが嫌だからだって訂正したくなったけど、それも面倒くさいので言葉にするのをやめた。そんなことを言ってもきっと彼女には伝わらない。いま目に映る僕はおそらく彼女の中で色をつけられている。  それは恋の盲目フィルター。目に映るすべてが色鮮やかで輝いて見える。僕にも覚えがあるものだ。目の前が塗りつぶされて、それ以外目に入らなくなる。目に飛び込んでくる一つ一つが、キラキラと光を含んで目を奪われてしまう。  好き、愛してる――そんな感情で胸がいっぱいになって、その想いに溺れていく。沈み込んでいくのにも気づかないくらいに、馬鹿になってしまうんだ。 「僕は、あの人がいないと息も出来ないくらいなんだ。離れてしまうくらいなら、壊してでも繋ぎ止めたいって思うくらい。だから僕はこれから先も誰かによそ見をすることなんてないよ」  息を飲み込んだ君の綺麗な感情なんかとは比べものにならないくらい、僕の感情は暗くて重い。深く深く根を張ったその想いはそよぐ風なんかじゃ解けたりしない。もうずっと前から僕の中には彼しか残っていないんだ。 「悪いこと言わないからやめておきな。時間の無駄だよ」  俯いた頭をしばらく黙って見つめた。肩が小さく震えて、握りしめた手にぽつりぽつりとしずくが落ちる。だけど僕はなにも言わずにそのまま彼女に背を向けた。いまここでなにをしても、なにを言っても慰めにはならない。優しさなんてただの自己満足で、残酷なものだ。  賑やかで鬱陶しい街から一刻も早く離れたくて、僕は上がる息を抑えながら先を急いだ。

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