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第22話 独占的 2-3

「なに? どうしたの? なんか今日は随分至れり尽くせりだね」 「まあな」 「ふぅん、なんか僕に言いたいことがあるとか?」  そういえば久しぶりとは言え、呼ばずに家にやってくるなんて珍しいかもしれない。いつもなら誘っても課題が忙しいとか、集まりがどうとか言って渋るくらいなのに。チラリと視線を向ければ、なんだか口ごもった様子を見せる。 「いいよ。言いなよ。僕が怒らないことなら聞いてあげる」 「えっ! いや、それは、その」 「ほら、早く。僕の気の変わらないうちに」 「……あー、ええっと来週の木曜日」 「木曜日?」  言い淀む鷹くんの声はそこで止まった。顔を持ち上げて壁掛けのカレンダーを見上げると、その日は赤いマジックで大きく丸がつけられている。絶対見落としようがないくらいはっきりと。僕はしばらく口をつぐんで次の言葉を待った。 「悪い! その日、特別講義が入って出かけられなくなった!」  待つこと五分くらい。気配でもわかるくらい深々と頭を下げて、鷹くんは信じられない言葉を発した。それを飲み込むまでに数秒要したが、僕はぐっと身体を持ち上げると、バランスを崩して後ろにひっくり返りそうになった鷹くんの腕を強く引き寄せる。そして体勢を入れ替えて、勢いのまま捕まえた身体を床に組み敷いた。  先ほどまでと逆転した体勢。馬乗りになった僕は、目の前で真っ青な顔をしている恋人を見下ろし、大きく舌打ちをする。 「鷹くんのさぁ、そういうとこ。どうにかなんないのかなぁ。どうしたら直るわけ? なんでそんなに俺を怒らせるのが得意なの? その日はずっと前から約束してたよね」 「これは! 逃したら次のチャンスがあるかわかんねぇくらいの凄い人が来るんだよ!」 「そんなの知らないし。って言うか、それが終わったらまっすぐ帰ってくるわけじゃないんでしょ? どうせ飯食いに行って帰って来んのてっぺん過ぎた頃だろ。意味ないじゃん」 「しゅ、週末は一緒にいるから」 「意味ないって言ってんだろ! 鷹くんの誕生日は週末じゃないでしょ! 去年だって友達がどうだこうだって、二人で過ごせなかったんだけど!」  肩を掴む手に力がこもる。ギリギリと爪を立てれば、目の前の顔が痛みに歪んだ。でも声は出さずに鷹くんは唇を噛む。

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