24 / 36

第24話 独占的 2-5

「よくない。俺は、お前がそうやって最後には折れるのをわかってて勝手に決めた。だからごめん。本当に悪かった」 「参加したらこの先のきっかけにもなるんでしょ。いいよ、別に。どうせ僕は鷹くんの将来に責任持てないし」  目指す先があって、夢も希望もあって。鷹くんの未来には色んな可能性がある。これからたくさんのことを覚えて、たくさんの人に出会って、俺のことなんか構ってる暇がないことなんてわかってた。いつだって鷹くんは僕の前を歩いて行く。どんどんと進んで、いつかその背中も見えなくなる日が来るかもしれない。 「僕はそのうちいらなくなるんだ。そうだよね、いまだって束縛するばっかりで、なんの役にも立ってないしね。僕はいてもいなくても変わらない。きっと鷹くんに必要ないんだ」  言葉にしたらひどく胸が苦しくなった。震えた手からスプーンがこぼれ落ちて、カランと乾いた音がする。小さく響いた音はやけに耳について、僕の中身が空っぽな空洞なんじゃないかと思えてきた。なんにもないから音がよく響く。でも掴まれた左手が勢いよく引っ張られて、耳元で聞こえるどくんどくんと脈打つ音がいま自分の中で響いているのか、それとも伝わる音なのか、それがよくわからなくなった。 「馬鹿野郎! 勝手なことばっかり言うな! 誰がいつ和臣をいらないなんて言ったんだよ!」  気がついたら抱きすくめられていた。背中をきつく抱きしめる鷹くんの手が震えているのがわかる。大きな怒鳴り声も、最後のほうには少し掠れて、いまにも泣きそうな声だと思った。だから右腕を伸ばしてぎゅっと背中を抱き寄せた。 「鷹くん、泣かないでよ」 「お前が泣かないから泣けるんだよ、馬鹿。お前はいっつも最後にはそうやって飲み込んで、聞き分けがいい顔をして口を閉ざす。お前がそうするたびに俺は甘えちまう。お前が苦しい思いしてるのに、自分の都合のいい道を選んでしまう。お前のそれは優しさでも誠実さでもない。いい加減気づけよ」  少し前にそれはあなたのいいところ、とそう言われた気がしたけど。鷹くんはそんな甘っちょろい言葉を簡単に吹き飛ばしてしまう。僕を追い詰めるのも、僕をすくい上げるのも、結局はいつだって鷹くんだ。それは僕の中にあるたった一つの輝き。  僕の中身がなんにもなくても、僕の中にはきっと鷹くんという光が最後に一つだけ残るだろう。

ともだちにシェアしよう!