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第27話 独占的 3-3
「……僕は、可哀想な子じゃない! 違う、僕は」
「お、み?」
頭の中が真っ白になった。息が苦しくて、もがいて手を伸ばして、必死になってすがりついた。気づいたら白くて細い首に両手をかけて、僕はボタボタとしずくをこぼしていた。荒い呼吸が耳について、肩がゼイゼイと大きく息をする。抵抗することのない身体にまたがり、僕は声を上げて叫んだ。
「……み、臣、和臣!」
空気が震え、つんざくような奇声が響く。その声から逃れるように僕は耳を塞いだ。だけどその声は消えていかなくて、きつく耳を塞ぐほどに鼓膜を侵食していく。どんどんと脈打つ音が速くなって、どんどんと呼吸が出来なくなる。でも両手に重ねられた手と、唇を塞ぐ柔らかなぬくもりが、耳障りな音と声をかき消した。
「んっ」
触れた唇を割り、口の中に滑り込んだ熱いものに舌を絡め取られる。上擦るように声が漏れるけれど、感じる熱が心地よくて僕はゆっくりと目を閉じた。何度も繰り返される口づけに、忙しなく動いていた鼓動は少しずつ減速していく。息が混ざり合ってようやく頭がクリアになった。
「た、かくん」
瞬きをしたら頬に生ぬるいものが滴る。慣れないその感触に眉をひそめれば、鷹くんの手のひらがそれを拭うように触れた。ゴシゴシと乱雑なくらいだけど、その手の温かさに胸の軋みが和らいだ。
「ごめん、和臣。そうだな、お前は可哀想じゃない。それは俺が作り出したイメージだ。本当の気持ちは他人なんかにわかるもんじゃないよな。俺はさ、いつも適当で、いい加減に生きてきたから。和臣の感じてる辛さは半分もわかってやれねぇ。だけどお前を否定しないことくらいは、出来るはずだよな」
まっすぐな鷹くんの目が僕の瞳の奥をのぞき込む。奥底に押し込められた感情が、彼に呼び起こされる。僕は腕を伸ばして目の前の身体を抱きしめた。情けないくらい震えた手は、鷹くんの背中にしわを作る。
「置いていかないで」
「うん」
「傍にいて」
「うん」
「好き、鷹くんが好き。僕のことずっと好きでいて」
「ああ、どこにも行かない。大丈夫、俺はお前が好きだ」
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