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第3話

俺の隣に座る司波さんはそっと俺の顔に手を添えた。目の下のクマを親指で優しく擦られ、思わず目を瞑ってしまう。司波さんに触れられた部分がじんわりと熱くなって、胸がすごくドキドキする。 こんな感覚初めてで、だけど、この感覚の正体は何となくわかる気がする。 おかしいな。元々ストレートのはずだし、今まで男性にドキドキする事なんてなかったのに。 この人が、俺の命の恩人だから好意的な印象を受けたからかな。 司波さんはクスリと小さく笑い、唇に何かが触れる。温かくて柔らかい、その感触は一体何なのか。 もう一回してくれたら、わかる気がする。 「可愛い。抵抗しないんだ」 「今のって……キス……?俺、初めてで、よく分かんなかった……。だから、んっ!」 『もう一回、して』 言い終わる前に、司波さんはぐっと顔を寄せてきてチュ、と優しく口付けた。 緊張で硬直してしまっている身体を優しく撫でられ、ゆっくりと身体の力を抜いていく。 初めてのキスに戸惑い半分、ドキドキ半分だった。この歳でキスが初めてだなんて恥ずかしくて絶対言えないけれど、キスってこんなにもドキドキして緊張するものだったんだ。 触れるだけのキスだったが、これ以上濃厚なものをしたら俺の心臓が持たない。 「はは、本当に可愛い。 もうあのアパートに帰れないのならさ、俺と一緒に住もうよ!」 「え? でも……」 「だって、行くところないんでしょう?なら、俺と一緒に居よう。守ってあげられるし、誰かと居た方が安心するし!」 まるで、名案だ!とばかりに嬉しそうな表情をする司波さんは、犬みたいで可愛い。人懐っこそうだ。 とても嬉しい誘いだが、その甘い言葉に頷いてしまっていいのだろうか。 お互いに好意は持っているが、今日初めて会ったばかりでお互いの事を全く知らない。 見ず知らずの人と同居するなんて、司波さんはいいのだろうか。 俺としてはとても嬉しい誘いだし、出来ることならそうしたいのだが。 同情してくれているのだろうか。 「司波さんは、いいんですか? 他人の俺なんかと一緒に住むの」 「だから、いいって言ってるじゃん! それに、もう他人じゃないし?」 そう言って、また唇を奪われる。 確かに、キスは他人とはしないだろう。なら、俺たちの関係って一体? 友達とはキスはしないし、恋人ではないし。セックスフレンドみたいな、キスフレンドとか?それが一番しっくり来るかもしれない。 「じゃあ、お言葉に甘えて。 俺といるの嫌になったらいつでも追い出してくれて構いませんから」 「ならないよ。この先も、ずっとね」 司波さんの綺麗な口元が、ゆっくりと弧を書いた。

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