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第4話

「それでは、行ってきます」 「うん、行ってらっしゃい。帰りは迎えに行くから、会社で待っててね」 「はい。ありがとうございます」 司波さんと同居する事になった翌日、俺は会社に行くために玄関で司波さんと一旦バイバイする。彼は今日の仕事は休みらしく、迎えに来てくれるとの事。 何の仕事をしているのかは教えてもらえなかったが、きっとこれから知っていけることだろう。 あのストーカー行為から解放されて、俺はとても清々しい気分だった。嫌いな満員電車に揺られるのも苦じゃない。空を見上げて「綺麗だ」と思ったのはいつぶりだろう。 昨日はよく寝れて、思考もスッキリとしている。今日は頑張れそうな気がする! とにかく、解放された安心感からか、すっかり気は緩んでしまっていた。 やっと資料作成が終わり、うーんと伸びをしていると、ポスンと頭の上に何かが乗っかった。 「高良、お前宛に手紙が来てるぞ」 「え?手紙?……ありがとうございます」 会社に俺宛の手紙が届くなんて滅多にないから、驚いてしまった。心当たりは全くなくて、とりあえず開けてみようと、封を切り手紙を取り出す。 その内容に、心臓がキュッとなるのが分かった。 なんで、なんで、なんで……!もう解放されたんじゃなかったのかよ!気持ち悪い、気持ち悪い!! 『ずっと見てる。愛してる。戻っておいで。愛しの梓』 どうやら俺の行動は監視されているらしい。 俺がもうアパートに戻らないと知って、ついに会社にまで手紙を送ってきた。男の俺がストーカーされていると会社中に広まったら……と考えると怖くて堪らない。 落ち着け、落ち着け……と心の中で呪文のように唱えて、シュレッダーにその手紙をかけた。これでもう見られることはないだろう。 「高良くん、顔色がすごく悪いよ。早退する?」 「あ……。いや、ちょっと貧血気味で」 「無理せずに休んできなよ。ちょっと早めの昼休みだよ!」 隣のデスクの同僚が心配して話しかけてくれた。 だけど俺は口下手で、きちんと目を見て話すのが苦手だった。俯いて返事をしてしまい、申し訳なくなる。 そんな俺を皆「変なやつ」と言って遠巻きにしていた。話しかけてくれるのは、この女性と、部署のリーダー的存在である先輩ぐらいだ。 お言葉に甘えて早めの昼休みを取らせてもらうことにした。正直あの沈んだテンションで仕事しろなんて、無理に決まっている。 司波さんの声が聞きたい……。あの心地よい、暖かい声に包まれたい。 今、電話に出てくれるだろうか……。 いつもスマホが入っているポケットに手を突っ込んだが、スマホの存在が確認できない。もう片方のポケット、ズボンのポケットも探したが、スマホはどこにもなかった。 「あっ!そうだ……」 昨日、あの不気味な電話が掛かってきてぶん投げたんだった。テンションは更に急降下した。

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