4 / 7
第4話
「それでは、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい。帰りは迎えに行くから、会社で待っててね」
「はい。ありがとうございます」
司波さんと同居する事になった翌日、俺は会社に行くために玄関で司波さんと一旦バイバイする。彼は今日の仕事は休みらしく、迎えに来てくれるとの事。 何の仕事をしているのかは教えてもらえなかったが、きっとこれから知っていけることだろう。
あのストーカー行為から解放されて、俺はとても清々しい気分だった。嫌いな満員電車に揺られるのも苦じゃない。空を見上げて「綺麗だ」と思ったのはいつぶりだろう。 昨日はよく寝れて、思考もスッキリとしている。今日は頑張れそうな気がする!
とにかく、解放された安心感からか、すっかり気は緩んでしまっていた。
やっと資料作成が終わり、うーんと伸びをしていると、ポスンと頭の上に何かが乗っかった。
「高良、お前宛に手紙が来てるぞ」
「え?手紙?……ありがとうございます」
会社に俺宛の手紙が届くなんて滅多にないから、驚いてしまった。心当たりは全くなくて、とりあえず開けてみようと、封を切り手紙を取り出す。
その内容に、心臓がキュッとなるのが分かった。
なんで、なんで、なんで……!もう解放されたんじゃなかったのかよ!気持ち悪い、気持ち悪い!!
『ずっと見てる。愛してる。戻っておいで。愛しの梓』
どうやら俺の行動は監視されているらしい。 俺がもうアパートに戻らないと知って、ついに会社にまで手紙を送ってきた。男の俺がストーカーされていると会社中に広まったら……と考えると怖くて堪らない。
落ち着け、落ち着け……と心の中で呪文のように唱えて、シュレッダーにその手紙をかけた。これでもう見られることはないだろう。
「高良くん、顔色がすごく悪いよ。早退する?」
「あ……。いや、ちょっと貧血気味で」
「無理せずに休んできなよ。ちょっと早めの昼休みだよ!」
隣のデスクの同僚が心配して話しかけてくれた。
だけど俺は口下手で、きちんと目を見て話すのが苦手だった。俯いて返事をしてしまい、申し訳なくなる。 そんな俺を皆「変なやつ」と言って遠巻きにしていた。話しかけてくれるのは、この女性と、部署のリーダー的存在である先輩ぐらいだ。
お言葉に甘えて早めの昼休みを取らせてもらうことにした。正直あの沈んだテンションで仕事しろなんて、無理に決まっている。
司波さんの声が聞きたい……。あの心地よい、暖かい声に包まれたい。 今、電話に出てくれるだろうか……。
いつもスマホが入っているポケットに手を突っ込んだが、スマホの存在が確認できない。もう片方のポケット、ズボンのポケットも探したが、スマホはどこにもなかった。
「あっ!そうだ……」
昨日、あの不気味な電話が掛かってきてぶん投げたんだった。テンションは更に急降下した。
ともだちにシェアしよう!