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第5話
仕事を終え、急いでオフィスを出ると司波さんは約束した通り会社の前で待ってくれていた。少し遅れてしまって申し訳ない。帰る直前に部長に呼び止められるなんて、最近本当にツイてない。
「司波さん、遅れてすみません!結構待ちました?」
「いや。俺も今来たとこ」
待たせてしまって、怒っているんじゃないかと不安だったが、優しい笑顔を向けられて内心ホッとする。
行こうか、と歩き出す司波さんの服の裾をキュッと掴んで引き止めてしまった。 自分でも、何やってるんだ!と冷静になり慌ててパッと手を離したが、その手は司波さんに捕まえられてしまった。
「どうしたの?」
「い、や……あの……。寄りたい所があって……。でも、やっぱり一人で行きます」
「ダメだよ」
掴まれている手を痛いほど握られ、思わず顔を顰める。
司波さんを見上げると、いつもみたいに優しい顔じゃない。冷たくて、怖い。同じ人なのに、まるで別人みたい。
「ダメだよ。一人で行くなんて言わないで。俺は梓さんの力になりたいんだ。ずっと、守るから……一緒に行こう?」
「司波さん……。ありがとう、ございます」
そう言う司波さんの顔は、いつもみたいに優しい顔に戻っていた。さっきの司波さんはまるで別人みたいで怖かった。 だけど、本当に俺の事を心配してくれているんだ、俺の事を大切に思ってくれていると思うと純粋に嬉しい。
今まで誰かに守られるなんて経験は全くなくて、誰にも頼らずに全て一人で解決しようとしていた。……だけど司波さんになら、守ってもらいたいと思ってしまう。いつからこんなに女々しくなってしまったのか。
司波さんに着いてきてもらって、アパートの前まで来た。郵便受けの前には、散らばった例の手紙と一緒に、シルバーのスマホが転がっていた。
「あ、あった……。良かった」
「あぁ、スマホ忘れてたんだね。壊れてない?画面バキバキじゃん」
「あはは……。投げつけちゃったから。 大丈夫そうです。ちゃんと画面もつく」
充電が切れているかと思いきや、まだ充電は残っていたみたいで、バキバキに割れた画面に映される実家の猫の画像。
しかし、その不在着信の数にため息をつく。 恐らく100件は超えているだろう。なぜここまで俺に固執するのか全く分からない。
「あっ!」
不意に、スマホが震えた。知らない電話番号で、昨日の恐怖が蘇り、手が震える。
「貸して。俺が出る」
スマホを奪い取られ、司波さんが電話に出た。 震える手を、ギュッと握って落ち着かせてくれる。
「はい。何か用ですか」
『…………』
「こいつ、俺のなんでもう掛けてこないで下さい」
それだけ言い切ると通話終了ボタンをタップして、スマホを返してくれた。
顔を赤くする俺をクスクスと笑いながら、司波さんはよしよしと俺の頭を撫でる。
「俺のって……」
「間違ってないでしょ。こういう奴らは彼氏相手には強く出ないから」
もう掛かってくることはないと思うよ、と優しく微笑む司波さんに、ドキンと心臓が跳ねる。
俺、本当にこの人のこと……。
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