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第6話

あれから電話がかかってくる事は無かったし、あのアパートも解約した。部屋の物も全て処分して、ストーカーされた細道にも近付いていない。俺は怖くてアパートに戻りたくなかったから、ほぼ司波さんにお願いした。 「じゃあ、日向行ってらっしゃい」 「行ってきます」 チュ、と行ってきますのキスをして司波さんこと、日向を送り出す。新婚夫婦ですかって程甘い生活をしていて、それに慣れてきてきる自分がいる。 びっくりすることに、日向は俺の好みをバンバン言い当ててしまって驚いている。好きな系統が似ているらしい。 最近ハマってるキューブのチーズを買ってきてくれた時は感動した。 俺はと言うと、会社を辞めてしまったのだった。あの日、会社にまで手紙が届いて、もうここでは務められないと思った。日向にも話すと、辞めた方がいいと言われて数週間前に退職したのだ。 今は専業主夫状態。日向は養うと言ってくれているけれど、俺としてはまた働きたいと思っている。日向の負担になりたくないから、ちょっとでも働いて楽させてあげたい。 『今日は美味しいハンバーグのレシピをご紹介いたします。旦那さん、お子様に喜んで貰いたいという方必見です』 「ハンバーグ……旦那さん……」 その2つのワードにピクリと動きを止めて、テレビに齧り付くように見入った。 毎日働いている日向に手作りハンバーグを作ってあげたい。その一心でハンバーグの材料をメモして、作り方も頑張って覚えた。 ちょうど挽き肉も玉ねぎもあるし、今日はハンバーグを作ろう!と張り切った。 夕方になり、ハンバーグ作りに取りかかる。 まずは玉ねぎをみじん切りにしてレンジで柔らかくしておく。次に挽き肉と玉ねぎと調味料を加えてよく捏ねる。マヨネーズを入れるとふっくらジューシーに仕上がると言っていたので、マヨネーズも入れてみた。 フライパンを温めて、成形したハンバーグを焼いていく。ハンバーグのいい匂いがして、作るのが楽しいと感じた。思ったより簡単だったし、これならまた作れそうだ。 出来上がったハンバーグを皿に乗せて、サラダを添えて、ついでに作った手作りのソースをかけると完成! 「ただいま! すごいいい匂いがする。ハンバーグ?」 「おかえり! 今日はハンバーグにしてみたんだ。美味しいかどうかは分からないけど」 「梓さんが俺の為に作ったハンバーグが不味いわけないでしょ!すごい美味しそう!食べてもいい?」 帰ってくると必ずハグしにくる。本当に大型犬のようだ。尻尾をフリフリ振ってそう。 日向はスーツを脱ぐなり、テーブルに置かれたハンバーグの前に座った。 綺麗な箸さばきでハンバーグを一口大に切って、口の中に入れた。 不味いって言われたらどうしよう……なんて考えていると、日向は驚いた顔をした。やっぱり美味しくなかったんだ! 「日向!無理しなくても……」 「美味しい!本当に、すごく美味しい!柔らかくてジューシーで、こんなに美味しいハンバーグ食べた事ないよ!」 「大袈裟な……」 日向大絶賛のハンバーグ、俺も一口食べてみると、その気持ちが分かった。めちゃくちゃ美味しいじゃないか! あっという間に完食してしまい、お腹いっぱいで幸せだ。日向にも喜んでもらえたし、作って良かった。 「こうして梓さんの手料理を食べられるの、幸せ」 「ふふ、俺も喜んで食べて貰えるの嬉しい。 作った甲斐があったよ」 「もう、そんな可愛い事言ったら梓さんを食べたくなるでしょ!」 俺を食べる。その意味が分からないほど俺はバカじゃない。 キス以上の事はした事がなくて、そろそろいいんじゃないかと思っていた所だ。 「食べてくれないの?」 「たっ!?た、……食べます!」 俺の発言に、日向が動揺しているのを見てつい笑ってしまった。 こんな明るくて、幸せな未来が待っているなんて、あの時は思っても見なかった。 出会ったのが日向で良かった。

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