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歪な恋は聖夜に始まる06
◇ ◇ ◇
その日の夜には、設楽は真崎とともに東京駅へと降り立った。普段駅を使う事が少ない設楽が、その人の多さに辟易したことは言うまでもない。僅かに顔を顰めた設楽はだが、その袖をぐいと強く引かれて我に返った。
ふらりと、真崎の躰が傾ぐ。
「っ…と、大丈夫か?」
「みこ…と…っ」
腰を支えてやれば、真崎の細い指先が服地を掴む。小刻みに肩を震わせながら見上げる真崎の目が潤んでいた。
「ぃ…ゃぁ…、また…っ」
足元へとしゃがみ込んだ真崎を、何事かと振り返る人々に設楽は苦笑を漏らした。人の多い駅の構内では、しゃがみ込むその姿はあまりにも目立つ。その上、真崎は未だ和服のままだった。
景次の家で着替えると言った真崎を止めたのは設楽だ。ついでに、悪戯心に真崎の躰に貞操帯を着けさせたのも。
看病でもするかのように大きな躰で真崎の横へと膝をつき、耳元へと低く囁いた。
「吐き出せもしないのにまたイったのか? こんなところで座り込んでたら気付かれるぞ」
「っ…ぅく」
新幹線の中でも、幾度か係員に声を掛けられた真崎の頬は紅潮し、明らかに異常な姿を晒していた。その度に、設楽はただの持病で薬は飲ませたと誤魔化し、自らの上着を掛けた真崎の頭を撫でてきたのである。
「それとも、気付かれたくてやってんのか? ん? 変態」
「ぁっ…ぁ」
設楽の胸元に縋りついて見上げる真崎の表情は、だが何故かこの時は必死に見えた。
「み…こと…、わたくしは…もぅ…」
「俺まで同じような目で見られるのなんぞ御免なんだよ。さっさと立て」
「お許しくださぃ…これ以上…動けません…」
胸を喘がせながら言う真崎の腕を引き上げるものの、すぐにガクリと膝から崩れ落ちる。ざわざわと人の多い構内で周囲に集まり始める人影がちらほら見えて、設楽は舌打ちを響かせながら縋りつく真崎の躰を抱え上げた。
反動で落ちた草履を拾おうとすれば、見知らぬ女が拾い上げて差し出してくる。
「どうも」
「あ、いえ…。もう片方も脱げそうなんで、こちらに乗せておきますね」
「ぁりがとう…ございます…」
瞳を潤ませ、紅潮した顔で小さく礼を言う真崎の腹の上に丁寧に草履を乗せて、その女は『お大事に』と、そう告げて去っていった。
設楽が、大股で歩き出す。僅かに出来上がりかけていた人垣は、設楽の体躯の大きさにあっという間に割れていく。
「ったく、我慢のきかねぇ野郎だな」
「申し訳…ございません…」
移動中に呼び出しておいた車へと真崎を抱えたまま近付けば、すぐそばで待機していた若い男が後部座席のドアを開ける。
「叔父貴…そちらは…」
「どうでもいいだろう。とっとと車出せ」
「はっ、ハイッ!」
低い設楽の声に、若い男は慌てたように運転席へと回った。すぐに滑り出した車に、真崎のマンションの住所を告げる。本来であれば匡成に挨拶をするのが筋だが、連絡を入れれば明日でいいとあっさり言われていた。もちろん、匡成とともに居る雪人から真崎も同じことを言われている。
地下の駐車場ではなく、エントランスへと車を付けるように指示した設楽は、再び真崎の躰を抱えて降り立った。
設楽の腕に抱えられたままの真崎がオートロックの基板を操作すれば、自動ドアは音もなく住人を迎え入れる。エレベーターを降り、廊下を進む。一番奥のドアへと真崎がカードをかざせば、電子音とともに錠が解かれる音が廊下に響いた。
部屋に入ってすぐの場所にある寝室の扉を無視してリビングへと入った設楽は、ソファの上に真崎の躰を雑に落とした。
「っ…ぁあ…尊…っ、お願いします…外して…」
すぐさま縋りつく真崎を見下ろし、設楽は煙草を咥える。久し振りの真崎の部屋は、数カ月本人が不在の間も誰かが換気をしていたのか、何も変わりはなかった。
「我慢するのも好きだろう? もっと苦しんだらどうだ?」
「お許しください…昨晩からわたくしめは…っ」
「その割に嬉しそうな顔してんじゃねぇかよド変態。外したければ自分で外してもいいんだぜ?」
真崎に装着させた貞操帯には、鍵などは一切付けていなかった。外そうと思えばいくらでも外せるのだ。それをしないのは、真崎の自由である。元より偏った性癖の持ち主である真崎にとってそれは、ただ快楽を増幅させるための道具で、躾の為でも調教の為でも何でもない。好きにすればいいと設楽は思う。
あっさりと真崎の躰を引き剥がし、設楽は灰皿を取りにカウンターへと向かった。ステンレス製の小さな丸い灰皿を片手に、ソファへととって返す。
着物の裾を乱したまま胸を喘がせる真崎の姿は確かに憐憫を誘うものだが、その表情を見れば哀れみなど湧き起ろうはずもなかった。
設楽が腰を下ろせば、するりと真崎が床の上に這い降りる。真崎は自ら足元へと蹲り、額を擦りつけた。
「あっ…あぁ、尊っ、性器が擦れて…堪らなく気持ち良いです…っ」
「本音はそっちかよ。相変わらず気持ち悪ぃなお前」
真崎の肩を蹴り上げれば、よたりとよろめく。はだけた裾を爪先で払ってやれば革製の貞操帯が顔を覗かせた。
「尊…尊っ、わたくしのはしたない姿を…どうかご覧ください…っ」
「踏んでやっからもっとこっちへ来い」
「ああ…ぁっ、ありがとうございます…! わたくしめを足蹴にしてくださるなんて…」
端正な顔を悦びに歪ませ、ずりずりと床の上を和服姿で這う真崎はまさに異常としか言いようがない。いったいどこでどう間違えたならこんな性癖が身につくのか、設楽には不思議でならなかった。
――分かってても気持ち悪いってのは、相当だろう…。どこまでエスカレートすんだこいつは?
乳首をニードルで貫かれても、恍惚とした表情を浮かべるような男である。ともすれば何をしたところで、真崎にとっては快感にすり替わってしまうのではなかろうか。そう思えば恐ろしい。
体躯に見合った大きな足を真崎の下肢へと下ろせば、艶やかな嬌声がリビングに響いた。
「はあぁ…っ、あッ、気持ち…いッ、れふぅ…!」
「そうかよ。俺は気持ち悪くて仕方がねぇよ阿呆が」
「ああッ、もっとぉ…! もっと蔑んれくらさ…っ」
「黙れ変態」
ぐっ…と脚に力を入れれば、床の上で真崎の躰がビクンと跳ねた。
「あぐ…ッ、う゛ッ、ぃい゛…ッ、ごわれるぅ…」
「潰されたくなきゃ黙れ」
「はひぃ…」
ぶるぶると躰を震わせ、痛みに耐える真崎の眦から涙が零れ落ちる。苦痛と快感の入り混じった表情が、何とも言い難い色香を纏う。
襟元を細い指先できゅっと握り締め、仰け反らせた真崎の喉元が艶めかしかった。
異常な姿を晒し、まさしく変態とも呼べるような言葉を吐き散らしておきながら、真崎の仕草はどこか恥じらいを残す。それが、どうにも設楽を煽るのだ。
あとほんの僅かでも力を入れたなら、取り返しのつかない事になるだろう力加減は、幾度か失敗を繰り返して設楽が覚えたものだ。まさかこんな形で役に立つとは夢にも思わなかったが。
真崎自身も限界くらいは分かるのだろう。はくはくと唇を戦慄かせるその顔には、僅かな恐怖が浮かんでいた。
様々な感情が入り混じり、それでも真崎の顔は微かに笑んでいるように見えるものだから手に負えない。
「ぁっ…は…っ、ぁぅ…」
「気持ち良いか?」
「はひ…」
焦点の定まらない瞳がゆらりと動き、真崎の口許が明確に笑みを象る。
「は…っぁ、きもひ…くて…、もぉ…ぁっ」
ひくりと、足元で躰を震わせたかと思えば、じわりとあたたかな液体が床を濡らす。それを合図に設楽が脚を下ろすと、落胆の響きを纏った声が真崎の口から零れ落ちた。
「ぁっ…ぁぁ…」
「物足りねぇツラしてんじゃねぇよ。謝れ」
「は…ひ…、粗相をして…申し訳あぃませ…、すぐに…綺麗にいたひますのれ…」
とろりと惚けた表情で囁き、躰を起こした真崎が設楽の足を両手で捧げ持った。丁寧に靴下を脱がせ、真崎は躊躇いもなく指へと舌を這わせ、口へと含む。
「んっ」
うっとりと脚を舐める真崎を呆れたように見下ろし、設楽は煙草を揉み消した。
「離せ。風呂に入る」
「は…い…。ご用意…いたしますので…」
しゅる…と帯を解き、真崎は着ていた着物でさっと床を拭った。『失礼します』と、そう言って、設楽のもう片方の靴下まで脱がせるあたり思考ははっきりしているようで。この男の精神構造はいったいどうなっているのかと、設楽は不安になってくる。
◇ ◇ ◇
水気を孕んだ黒い革の上を、真崎は細い指先で辿った。京都から東京まで。まさか設楽に、こんな物を着けたまま移動しろと言われるなど思いもしなかった。
一瞬、真崎の脳裏を過ったのは、そのまま設楽に放置されるのではないかという恐怖。”変態”と一言で言っても、その幅は広く好みは様々だ。自覚のある真崎ではあるのだが、まったく見ず知らずの他人に躰を預けたい類の趣味は持ち合わせていなかった。
――あのまま…、東京駅に放置されていたらわたくしは…。
ぞくりと、心の底から寒気が走る。貞操帯などというものを着けておきながら、設楽は錠を施さなかった。その意味が、真崎には途轍もなく恐ろしかったのだ。
「尊…わたくしの主人は…貴方だけです…」
堪えきれずにそう呟けば、設楽からは感情の読めない視線が投げかけられる。
「今更何を言ってる」
「わたくしは…あのまま置いて行かれるのかと思ったら怖くて…」
「は?」
「不甲斐のない玩具で…申し訳ございません…」
「あ? 何言ってんだお前」
するりと、伸びてきた大きな手に顎を掬い上げられる。真崎が恐々視線を合わせれば、設楽の視線が真っ直ぐ向けられていた。言い訳のような言葉が、ぽろぽろと口をついて出る。
「あの…わたくしは…あのまま駅に置いて行かれてしまうのではないかと…。尊が…望まれるのならと…そう思ったのですが…どうしても怖くて…。玩具の分際で分不相応な望みだとは…分かっているのですが…その…わたくしは…素性の知れぬ方に躰を預ける事は出来ません…。どうか…それだけはお許しを頂きたく…」
真崎は、祈るような気持ちで設楽の手を両手で包み込んだ。どうか、捨てないでくださいと、そう願いを込めて。
だが、設楽から返された声は真崎の必死な願いとは裏腹に随分と明るいもので困惑する。
「なるほど。お前はソレの意味をそうとったのか」
可笑しそうに笑いながら貞操帯を視線で示され、真崎は混乱する。他に、どんな意味があるというのだろうか…と。そこまで考えて、不意に浮かんだ答えに顔がカッと熱くなる。
「あぁあの…尊…っ、わたくしは…とんでもない勘違いを…」
「つまりお前は、俺がそういう趣味の持ち主だと、そう思った訳だな?」
「ぃいえ…っ、けしてそんな…っ」
ばしゃりと、湯を跳ねさせながら大きな体躯が湯舟の中で立ち上がる。浴槽を長い脚で跨ぎ超え、縁に腰掛けた設楽に見下ろされて真崎は僅かに床の上を退がった。
「み…尊…」
「たとえ鍵を付けたところでお前を誰かに触らせる気はねぇよ。勘違いすんな」
「鍵を…付けられなかったのでわたくしはてっきり…」
「それで怯えてたってのか? お前が?」
「……はい…」
くつくつと喉の奥で嗤いながら躰を抱え上げられて、真崎は息を詰める。膝の上に座らされ、大きな手が下肢を貞操帯の上から撫で上げた。
「…っ」
「変態にしちゃあ可愛いところもあんじゃねぇか。なあ?」
「尊…」
「そうだな…。今度は鍵付けて放置してやろうか?」
「ぃゃ…嫌です尊っ」
他人に触れられるのなど我慢が出来ないと、真崎は必死にしがみ付く。物足りないと思う事はあっても、やめてくれと本気で懇願したくなったのは初めてだった。
これまで相手にしてきた男は真崎を外に連れ出そうとはしなかったし、元よりその場限りの約束で肌を重ねている。間違いなど、起きようはずもなかった。
だが、設楽は違うのだ。設楽は、自ら望まずとも感情を削ぎ落して相手を甚振る事が出来る。そうやって、これまで設楽は真崎に快楽を与えてきた。
――思い違いをされてしまったら…わたくしは…。
それを思えば、言いようもないほどの恐怖が背筋を這い上がった。
「お願いします尊…それだけは…嫌…」
「我慢しろよ、好きだろうが?」
嫌だと頭を振ってみても設楽は面白そうに笑うだけだった。嫌がれば嫌がるだけ、望んでいると思われるのが恐ろしい。
「……尊以外は嫌です…!」
「優しくされんのは嫌なんだろう?」
設楽の言葉に、真崎は絶望すら覚える。途方に暮れる事しか出来なくて、設楽の胸へと額を擦り付けた。
「ゃ…優しく…してください、尊…」
他に言いようもなく小さく呟けば、ふわりと逞しい腕に抱えられる。
「少し虐め過ぎたか?」
「尊…わたくしは…」
「本気で嫌がってるかどうかくらいの区別はつくから安心しろ」
頭を撫でる設楽の大きな手が、とても優しかった。
ぴとりと、唇に何かが触れた感触に、真崎は大きく口を開けた。程よく噛み応えのある肉に、シャキシャキと歯ごたえがあるのは細く切ったネギだろうか…。ゆっくりと咀嚼していれば、上の方から設楽の声が降ってくる。
「旨いか?」
「はい…」
視界を遮られ、肘を折り曲げた状態で後ろ手に拘束されたまま、真崎はひんやりとした床の上に座らされていた。目の前には、設楽が椅子に腰かけている筈である。
浴室から上がった後、外された貞操帯の代わりに着けられたのはペニス用のハーネス。革と金属で出来たそれは、真崎のお気に入りでもある。設楽に見られていると思うだけでじんわりと躰が熱くなるというのに、こんな餌付けのような事をされて真崎が興奮を覚えないはずはなかった。
ふるりと、快感に躰が震える。硬く勃ちあがり、ハーネスの食い込んだ雄芯を見られていると思うだけで背筋をゾクゾクと喜びが這い上がってくる。
幾度か口の中に肉を放り込まれ、時には程よく冷まされた白米を与えられた。
――…甘い。
設楽もちゃんと食べているのだろうかと、そんな事を思いながら与えられる食事を真崎は胃袋に収めていく。マゾヒストだ変態だと真崎を罵りながらも、こうしてプレイを楽しませてくれる設楽は最高の飼い主ではなかろうか。
――わたくしがなりたかったものは…、道具ではなく…ペット…?
再び唇に弾力のある何かが触れて、真崎は思考を中断させると反射的に口を開けた。が、今度は一向に何も入ってこない。
「ぁ…」
「舌を出せ」
そう命じられて、僅かに上向いたまま言われた通りに真崎は舌を出した。その瞬間、冷たい何かがあっという間に喉まで落ちてきて、真崎は思わず噎せ返る。
「汚すなよ」
「ぅっ……申し訳…ありません…」
反射的に謝れば、ぐい…と頭を押し下げられる。
「舐めろ」
いったい自分の口許がどこに向いているのかすらも把握できないまま、おずおずと舌を差し出せば僅かに濡れた感触が舌先に触れた。
――床…?
髪をきつく掴まれたまま水滴を舌先で舐めとれば、今度は僅かに持ち上げられる。そこで再び頭を固定されて、真崎は舌を伸ばした。
「…ぁっ」
舌先に触れるあたたかな感触。硬い筋と骨の感触に、それが設楽の足である事に真崎は気付いた。
「尊…っ」
「そのまま上がってこい。お前が欲しいもんをくれてやる」
髪を掴んでいた手が離される。支えを失い、一度設楽の足へと顔を埋めた真崎はだが、不安定な上体を持ち上げた。
真っ暗な視界の中膝を使ってにじり寄り、ゆっくりと頭を下げていく。鼻先に熱を感じ取って、それが設楽のどの部分であるかを想像する。愛しい男の体温に頬を寄せれば、大きな手が髪をさらりと撫でた。
――嫌じゃない…なんて…。どうして…。
設楽と関係を持つまでは、優しくされるなど御免だと、そう思っていた。事実プレイの後でも、優しい言葉や気遣うような言葉を掛けられればそれだけで気持ちが冷めてしまっていた真崎である。だからこそ設楽ならばと選んだつもりが、優しくされて嬉しいどころかあまつさえ自ら『優しくしてください』などと口走ったばかりだ。
変わりつつある自分に真崎は戸惑いながらも、大きな手に吸い寄せられるかのように頬を寄せていた。
「は…ぁっ、尊っ、どうか…わたくしを可愛がってくださいませ」
「だったら可愛がりたくなるように楽しませろよ」
「はい…っ」
大きな手に導かれるまま顔を動かせば、ふにりと頬に硬いものが触れる。よく知る下生えの感触と、独特な硬さのそれに真崎は文字通り吸い寄せられた。
「は…ふ…っ、み…ことっ」
名を呼びながら鼻先で茂みを掻き分け、ふっくらとした睾丸を唇で挟み込むようにして刺激する。首をひねって丁寧に皺の一つ一つを辿るように舌を這わせれば、小さく息を詰める気配に嬉しさが込み上げた。
「あぁ…尊、……尊っ」
設楽の太腿に胸を支えられながらの奉仕は、真崎に狂おしいほどの悦びを与えてくれる。口いっぱいに頬張った球をころころと舌の上で転がし、時折啜り上げては舌先で擽る。気紛れに髪を撫でる大きな手が褒められているようで夢中になっていく。
「真崎…」
「ふ…ぅ?」
僅かに上ずった声で名を呼ばれ、髪を引き上げられてずるりと口の中のものが抜け落ちる。残念に思う間もなく唇に触れる濡れた感触に、真崎は反射的に口を大きく開けた。
――尊の…熱くて…硬い…。これで…喉を塞がれたらわたくしは…っ。
先端を口に含んだだけで喉の奥が疼き、じわりと目を覆う布地が濡れていく。設楽の体躯に見合った…否、それ以上の雄芯で喉の奥を突かれると思うだけで、真崎は頭の芯が痺れるほど気持ち良くなった。強請るように食まされた先端を啜り、肉傘のくびれへと舌を這わせる。
「うぅ…ッ」
「もっと欲しいか?」
「んっ」
――欲しい…。奥まで…。
そう思いながら必死に頷けば、微かな笑い声とともに一気に喉の奥へと肉棒を突き込まれた。
「うぐぅ…ッ、う゛ッ」
途方もない気持ち良さに目元の布地が更に水気を含む。呼吸すら設楽の手で管理されると思うだけで、真崎は言いようもない幸福に包まれた。
――あぁ…満たされる…。苦しくて…気持ち良い…。
これ以上ないほどに飲み込まされた熱が気道を塞ぎ、酸素が遮断されて頭の中が真っ白になっていく。何も考えずに済むこの時間が、普段気を張ったままで生活する真崎に安らぎを与えてくれていた。
小さく頭を振れば設楽の大きな手に髪を引き上げられ、真崎は酸素を貪る。あとほんの僅か吸い込もうと思ったところで再び喉を塞がれて、翻弄される事に快感を覚えていく。
◇ ◇ ◇
「あ…っ、あぅ…尊、も…ごわれ…ぅっ」
薄暗い寝室に濡れた水音と真崎の苦しそうな声が響いていた。一度腕を解き、左右それぞれの手首と足首を繋ぐ拘束具が、今の真崎には取り付けてある。ついでにおり曲がった膝裏に細い金属製のポールを通して固定した上に、首輪と短く繋いでいるために真崎は腰を落とす事すら適わずにいた。
苦し気な態勢ではあるが、そんな事で真崎が嫌がる筈もないのは分かりきっている。むしろ喜ぶような変態なのだ。視界を遮るための目隠しの上からでさえも、目蓋が濡れそぼっているのが見てとれた。
「壊れるじゃねぇだろう。ほら、もう一つ飲み込め」
「あ゛ぅ…っ、うぎ…ぃ…」
ピンポン玉ほどの大きさの金属製の球を、設楽は無造作に真崎の後孔に埋め込んだ。既に中に埋まっている球と当たり、鈍い音が微かに響く。手に持てばそう重くはないが、こんなものを尻の穴に詰めれば大層な重量だろうとそう思う。思いはするが、やめるつもりはさらさらなかった。
「嫌がっても説得力ねぇんだよ。なあ?」
硬く勃ちあがり、ハーネスを食いこませて変色しつつある真崎の雄芯を設楽はその指で強く弾く。
「ひぎッ、あ゛、あッ、ああ…ッ」
悲鳴にも似た声をあげて、ぐぷ…と、微かな破裂音とともに、押し込んだばかりの銀色の球が真崎の後ろの蕾から寝台の上へと落ちた。
「ぁ…ごめんなざいぃ…」
「謝る必要はねぇよ」
設楽が優し気にそう言えば、ひゅっ…と小さく真崎の喉が鳴るのが分かった。
浮き上がった真崎の腰の下に腕を差し込んで、設楽は無造作にその躰を持ち上げ反転させる。寝台に膝をつくようにひっくり返してしまえば真崎が必死に頭を振った。
「あぁああッ、みこ、尊ッ、お腹…ごわれりゅ…ぅっ」
今まで以上に重心が前に掛かり、金属の球が内臓を圧迫するだろう事は設楽にも分かる。
「だからどうした? こんなもんじゃ足りねぇだろう?」
するりと、伸ばした手で真崎の腹をさすってやれば、薄く付いた筋肉の内側に微かに球の感触がある。僅かな凹凸を指先で確かめるように辿り、設楽は前触れもなく指を皮膚へと食い込ませた。
「ひぐぅううッ! らめっ、あッ、しょれやらぁあああ!」
ぶるぶると躰を震わせる真崎の下肢から、小さな水音が漏れる。見る間に寝台の上を濡らしていく染みを、設楽は呆れたように見下ろした。
「本当にお前は我慢の利かねぇ野郎だな」
「ごめ…なざい…」
鼻水を啜り上げ、恥も外聞もなく謝る真崎の脚と首を繋ぐ鎖を外すと、設楽は転がしておいたアナルプラグを手に取った。せっかく飲み込ませた球が出てこないようにと、容赦なく後孔に栓をして寝台から真崎を蹴落とす。
潰れた蛙のような声とともに躰を強張らせ、身動きもとれぬまま床の上に転がる真崎へと一度だけ視線を遣る。シーツを取り払い、手早く寝台の上を綺麗にする程度の事は設楽にとって苦になるものではなかった。再び綺麗に整えられた寝台の端に腰掛け、煙草を咥える。
煙草の匂いにつられたのか、不自由な躰を捩り、目隠しをされたままの真崎が床の上を這いずった。こんなところを見れば、どことなく可愛らしく思えてくるから設楽としては困ったものである。
少しの間そうして真崎を見ていた設楽は、不意に口を開いた。
「動くな」
「はぃ…」
短い静止の言葉に、委縮したように真崎が首をすくめるのが分かる。それに僅かな苦笑を漏らし、設楽は真崎の膝裏に挟み込んでいたポールを抜き去った。
「みこと…」
「物足りなそうな声を出すんじゃねぇよ。床を傷だらけにしてぇのか?」
「ぁ…」
「それにお前、そんな心配してる場合じゃねぇだろ。ん?」
ぐり…と、真崎の下肢を足で踏みつけて設楽は笑う。
「いぎ…ッ、あッ…ああ゛…」
「そろそろ出さねぇと、本気で使いもんにならなくなるんじゃねぇのか? なあ真崎よ」
一度だけ根元から先端までを足裏で扱き上げ、設楽はあっさりと脚を下ろした。刺激がなくなってもなお震え続ける真崎の目隠しを取り払うと、眩しさに幾度か目を瞬かせ、ゆらりと動いた視線が縋るように設楽を捉える。
優し気に微笑んで膝をついてやれば、真崎の口からは弱音が漏れた。
「あっ…ぁ、みこっ…尊ッ、お腹…ぐるじぃれふ…っ」
「だから何だ? 苦しいのが好きなんだろ?」
設楽が無造作に伸ばした手で真崎の腹を押し下げれば、中でごろごろと球が動く異様な感触が腹筋の内部から伝わってきた。
「ひぎぃいいッ! ごわれ…ッ、おぐ…ごわれりゅうっ」
喉元を仰け反らせ、全身を強張らせる真崎に小さく笑い、設楽はもう片方の手で後孔に埋め込んだプラグを引き抜いた。ぐぷりと襞がめくれ上がり、中の媚肉が顔を覗かせる。
同時に、手前にあった球が一つ、真崎の中から転げ落ちて床を叩く。その音に、真崎が視線を揺らめかせた。
「…ぁ」
「誰が出して良いって言ったんだ。あ?」
腹の上に乗せたままの手を設楽が押し下げれば、真崎の躰がビクリと跳ねる。
「いぎぃ…っ、もっ、しわけ…ごじゃいませ…」
「仕置きをされたくてわざとやってんのか? どうしようもねぇ淫乱だな」
僅かに力を抜いた手で薄い腹筋を撫でる。可愛がるような手つきだが、その指先にはしっかりと球の感触があった。真崎が、必死に頭を振る。
「ひ…ッ、違っ…」
「そんなに気持ち良いなら玩具にイかせてもらえ」
設楽は転がり落ちた球を無造作に真崎の中へと戻し、無慈悲にも再びプラグで栓をしてしまう。そうしておいて、真崎の屹立を食んでいるハーネスを設楽は外した。
「ひやぁッ、あッ、あぁ…っ、あ――…ぁぅ」
ゆっくりと弧を描くように真崎の腹を撫でる。欲望を吐き出しながらガクガクと腰を跳ねさせ、意味をなさない声を吐き出す真崎を見下ろして、設楽は満足そうに微笑んだ。
腹の中を球が無作為に動くたびに真崎の雄芯からは白濁した体液が吐き出された。
「ぇあぁ…あぐッ、みごどぉ…とまらな…ッ、あッ、い゛ぃッ」
「もっと気持ち良くしてやろうな?」
吐き出す最中から腹筋の上から中の玩具を圧迫する。互いにぶつかり合い、逃げ場もなく無作為に動き回る玩具に腹の中を掻き回されて、真崎は喘ぎ続けた。
「あ――…、おなが…ごわれりゅ…ぅっ、せーえき…とまっ…なぁー…ぁぁっ」
虚ろに天井を見上げ、だらしなく開ききった口から言葉が出なくなるまで、設楽はその夜真崎を解放しなかった。
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