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15DAY

「目を瞑って」 後ろから、優しい声がした。 大好きな声。 言えば良かった・・・大好きって・・・。 会いたいよ・・・。 言われた通り、目を瞑る。 「私のシアンに触れたな・・・消えろ」 冷たい声。 僕にじゃない、僕の前にいる熊に言ったんだ。 次の瞬間、断末魔の叫びと鉄錆びの様な臭いがした。 ・・・血の、臭い・・・。 気持ち悪くなって口許を抑えようとしたら、くるっと振り向かされてぎゅっと抱き締められた。 いつもの、優しい匂いに包まれる。 ・・・ああ、大好きな匂い・・・。 「恐い思いをさせてごめんね」 アウル・・・大好きな、アウル。 抱き締めてくれる腕が、温もりが、嬉しくて涙が止まらない。 こんな僕を、こんな森の奥まで、助けに来てくれるなんて。 「すぐに手当てしよう。服を破くよ」 怪我の痛みなんてもう感じない。 アウルが助けに来てくれた、それだけで、僕は幸せだから。 「これで大丈夫。さあ、帰って温かいスープを飲んで、ゆっくり休もうね」 「アウル・・・目が・・・」 僕に微笑みかけてくれたアウルの目は、開いていた。 鋭い、金の瞳。 まるで獸のような・・・あれ・・・でも、この瞳、見たことある・・・? 「ガルムさん・・・みたい・・・?」 「ガルムに眼を借りたんだよ。・・・恐い?」 目を借りる、なんて出来るの? じゃあ、今はガルムさん、目が見えなくなっちゃってるのかな? 「恐くないです。でも、目の貸し借りなんて、痛くないんですか?」 「怪我の痛みに比べれば何ともないよ。私がもっと早くシアンを見つけられたら、あんな怪我なんてしなくて済んだのに。本当にごめん・・・」 アウルは何も悪くなんてないのに。 僕が勝手に逃げたのに。 僕なんか、助ける価値なんてないのに。 「・・・ど・・・して、ぼく・・・なんか・・・っ、こんな・・・こんな・・・っ」 「魔性の碧(ヴィリア)なのに?」 「・・・っ!?」 ヴィリア。 僕が、家で使用人の様に扱われていた理由。 15歳で、何も持たず家を出なければならなかった理由。 (わざわい)を呼ぶ碧い髪の悪魔の子、ヴィリア。 ・・・アウルには、知られたくなかった。 「帽子が好きなんじゃなくて、髪を隠したかったんだよね。知ってたよ」 知ってた・・・。 どおして・・・。 「シアンが住んでいた村では、あまり良い意味で使われていなかったみたいだけど、魔性の碧(ヴィリア)は精霊の加護を受けて生まれた美しい子の事なんだよ。隠す必要なんてないんだ」 精霊の、加護? ・・・違う、だって、悪魔の子だってみんなが・・・。 それに、魔性って悪い意味なんでしょ? 「シアン、魔性の魔は悪魔の魔って習ったの?じゃあ、魔法使いの私は悪魔という事になるけど、そうなの?」 「ぁ、アウルは悪魔なんかじゃな・・・・・・ぇ、魔法使い?」 アウルが魔法使い? え、そおなの!? 「気付いてなかったの?何度かシアンの前でも使ったけど・・・ああ、私は詠唱しないからね、判り辛かったかな」 「・・・えいしょうって?」 「魔法を使うために唱える呪文だよ」 僕は、魔法使いが本当にいるって事も、魔法を使うのに詠唱するって事も、魔性の魔が悪魔の魔じゃないって事も知らない、田舎者だったんだ・・・。 僕が必死に髪を隠してるの、街の皆は不思議に思ってたってアウルに聞いた。 もお、恥ずかしくて買い物に行けない・・・。 「とにかく帰ろう。ちゃんとベッドで休まなきゃ。それにグランや王国騎士団も君を探しているから、無事だと伝えないと」 「王国騎士団が!?」 ど、どおしよう・・・こんな大事になるなんて思ってなかった・・・。 お詫びにケーキを焼いたら、赦してもらえる・・・かな・・・。

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