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コインランドリー・デートスポット
それから久坂と佐倉の奇妙な交流は続いた。
名前を交換したあの時からコインランドリーで遭遇する確率が高まった気がする。佐倉の洗濯物が許容範囲を超えるタイミングと、久坂がふらりとランドリーに訪れる機会があの日を境に混じったようだ。
毎週同じ曜日に訪れるのが知らないうちにお互いの決め事になっていて、授業をとっていない日の午後にやってくると先に久坂が座っている。
たまに春の暖かさにうつらうつらしている久坂を発見するのが密かな楽しみで。大学生になって間もない彼も友達と呼べる人間は少なかった。
だからこそこの交流をなくしたくない。いつの間にか心の中に入り込んできた久坂との会話に心が軽くなったりもした。
佐倉が洗濯物を回し始めた音で起きて、おはようと告げる顔は年上ながら幼いなと思えるほどに久坂を観察するのにも随分と慣れた。
最初の頃は鋭い視線にあたふたしていたが、ただ単に目つきが悪いだけらしく別に怒っていないらしい。
多分聞いても「僕、そんなに怖いかな」とちょっとだけ肩を下げるんだろう。
会うと挨拶をして本当にたわいのない会話を交す。久坂は聞き上手だから、言うつもりのなかった事を知らぬ間に聞き出されている事が何度かある。
大人の余裕と会話テクニックにまんまと翻弄されながらも、彼とのおしゃべりは静かに弾んでいた。
どっちかが爆笑したり、凄く盛り上がるという印象はなかったけれど、佐倉はこの独特な空気を好きになっていた。
薫風に揺られる葉桜のようにゆっくり進んで、会話がなくなったらお互いが口を閉ざす。
シャボン玉のように話題が浮かんできたらぽつぽつとまた話し出す年上な筈なのに、そんなに気を遣わなくてもいい雰囲気を纏ってくれているので、気を張らないですむのも大きい。
「久坂さんって凄い落ち着いていますけど、いくつなんですか」
「言いたくない。ほら佐倉君からしたら僕なんてオジサンだから。それに落ち着いてもないよ。人から嫌みな性格だなーとかよく言われるし、怒ったりしたらすぐ頭にきちゃう」
「えーそんな風には見えませんけどね」
初期の自分が聞いたら声を失うぐらいフランクな佐倉の問いかけに、久坂は遠い目を向けた。
「ほんとだって。いつも同僚から些細な事で怒って、意地の悪いことすんなって良く注意される。口うるさい奴等にね。君と年の差を感じる瞬間がちらほらあって、なんだか悲しくなっちゃうし」
佐倉から貰ったあめ玉を口内で転がす久坂はこのように佐倉からの質問を濁すことが時々ある。言いたくないのか言っちゃいけないことなのか。
久坂さんの言葉を止めるストッパーの種類がどちらなのかは佐倉には当然分からないし、不思議と突き止めようとも思わなかった。ただ、この会話が心地良い。時間が許す限り、話していたい。
そうですか、とぼかして佐倉も苺味の飴を頬張る。もはや持ってきているだけの参考書の表面が日光に輝いていた。
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