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コインランドリー・デートスポット

「佐倉君って何の学部だっけ」 「ああ、法学部です」 「法学部って……あの法律とか勉強するやつ?」 「はい。将来弁護士になりたくて必死に勉強している最中です。まあ死ぬほど勉強しなきゃなれないんですけどね。厳しいかなやっぱり」 「いや、素敵な夢だと思うよ。弁護士かぁ。きっといろんな人を助ける素敵な弁護士になるんだろうね、君は」 光が目に入ったのか少し眩しそうに久坂は目を細めた。真正面からのアイコンタクトを受け止めきれず、もぞもぞと身じろぎをする。佐倉は褒められた事実に浮かれてしまっていた。春の陽気のせいだ、きっと。 弁護士になりたいと言って凄いねと言ってくれる人間はたくさんいた。でもこんな風に日陰から太陽を見上げるような表情をされた事はなく、なんと返したらいいのか迷う。落ち着かない様子の久坂はまどろっこしそうに髪を掻きむしった。 「ごめん、煙草きらしてたから今日は帰るよ。ちょうど君の洗濯も終わりそうだし。じゃあ、またね」 ポケットに手を突っ込んで少量の洗濯物を抱え、久坂は引き戸をあけた。がり、と聞こえてきた音はきっとあめ玉を砕く音。 それを聞いた佐倉は少し寂しくなった。久坂はコインランドリーにいるときは煙草は吸わない。灰皿だってお粗末だけれども設置されている。遠ざかっていく背中を薄汚い窓ガラス越しに見つめていると、白い煙が漂った。 「煙草、きらしてるんじゃないんですか」 呆れたような問いかけに、洗濯機がとまる音が答えてくれる。どうやら何か琴線に触れてしまったようだ。 それがなにか、やっぱり佐倉には・・・・・・ちっとも理解できなかった。寂しいとだけ思った。 考えても分かることではない事を、何となく承知した上で久坂のことを知りたいと望むのは浅はかだろうか。不器用な性格である。 お互いさぞかし生きづらい人生を送り続けているのを察し、なんだか悔しくなって佐倉もまだ丸い飴に歯を突き立てた。 それでも進みづらい関係を保つのは、佐倉自身だ。

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