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コインランドリー・デートスポット

次の日も佐倉はコインランドリーへ向かっていた。 昨日ここに来たばかりなのに、何故。なんとなく。そう、なんとなくだ。洗い立てのシャツを着て、コインランドリーの前を通っちゃいけない法律が、六法に加えられる日は多分やってこない。そんな日が来ないことを願いたい。  明確な理由なく虚ろな気持ちで漕ぐペダルがやけに重い。佐倉の足取りを移したかのように薄暗い雲が空を覆っていた。水分を含んだ生ぬるい風が髪の毛を撫でる。  五月は気づけば遙か後方に過ぎ去っていき、水無月色をした傘を持つ人が増えてきている。まだ今日は雨は降らないだろうと高をくくってきたが、既に後悔しかけている。  数週間前と比べてコントラストが灰色がかっている「昭和町コインランドリー」の看板を見上げて、こっそり中を覗き込んだ。 相変わらず回っている洗濯機の数は少ない。待合室には誰の姿もなく、からから寂しそうに回転している洗濯物は久坂のものではないことを本能的に感じ取った。彼なら眠そうな眼差しでソファに座っている。  久坂も昨日ここに訪れたばかりなので、いなくても当然だった。その事に佐倉は無性にもやもやした感情を覚える。 これじゃあまるで自分が彼に会いたがっているみたいではないか。嘘をついて自分から逃げた久坂のあの遠い背中を捕まえたいかのようではないか。  詮索なんてしないとこの関係を続けていくにあたり、勝手に創り上げたルールを壊そうとしている自分が、突然馬鹿馬鹿しくなった。どうせまた二日後、ここで出会う。その時までに、この複雑な気持ちを抑え込んでおかないといけない。胃の奥からこみ上げるもやもやしたものを強く飲み込み、自転車に視線を向けた。 「あ」  もやもやを飲み込んだ代わりに、小さな単語がこぼれ落ちる。 つい、口から声をもらした佐倉に気づいていないのか、確かに今、佐倉の自転車の籠に缶ジュースを放り込んだ男がそのまま去ろうとしていく。 待て待て、流石に見過ごせないぞ。風景に溶け込もうとしている通行人に戸惑いながら、掠れた声で呼びかける。 「すみません、それ俺の自転車なんですけど」 振り返った男に、早口で捲し立てた。佐倉は気分を害すると舌が早く回る性格だった。 男はあからさまに不機嫌な面を晒す。二度驚いてしまう。その顔をしたいのは佐倉のほうだ。権利があるのも佐倉だけだ。 当然の注意を、さも理不尽であるかのように受け止めた男に、佐倉はとびっきり苦い笑顔を浮かべる。 穏やかに速やかに謝罪を求めたいスマイルのつもりだった。注意を受けている男からするとただの挑発にしか見えなかったようで、ちっと乾いた舌打ちをかまし、うっとおしそうに佐倉に背中を向けた。 おいおい、缶を回収するつもりもなく逃げるつもりなのか。なんて野郎だ。 これ以上追いすがると、男が逆ギレをして更に場が混乱してしまうと判断し、泣き寝入りするのが一番の得策だという結論に落ち着く。 いくら佐倉が弁護士を目指しているからといっても、まだ資格も何一つ無い大学生。 いつの日かああいう輩を口論でいいくるめ、悔しそうな醜態をつるし上げる弁護士になりたい。今に覚えてろよ、なんて古臭い捨て台詞を心にガムと共に吐き出した。  缶を持ち上げると、半分ぐらい残っている。しかもラベルをよく見ると発泡酒だった。こんな昼間から酒を飲んでいる人種に深く関わらず正解だ。 中身を側溝に捨てて、缶は公園のゴミ箱にでも捨ててしまおう。今回のことは悪い出会いだったと始末をつけて、苛々を誤魔化そうとした佐倉は、自転車に跨がろうとする。 「佐倉君」

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