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コインランドリー・デートスポット

それからまた数日後、ついに季節は梅雨に突入した。前年より早い梅雨入りだった。咲きかけの紫陽花に小さなカタツムリが健気に這っている。 コンビニで買ったビニール傘を差しながら、佐倉は少量の洗濯物を手にして歩いていた。ここ数日続く雨のせいで、髪の毛が綺麗に纏まらないと嘆く少女達の横を通り抜ける。ばしゃ、と跳ねた水溜まりにも気づいていない程におしゃべりに夢中なようで、謝ろうとした口を閉じて先を急ぐ。 いつもは気にもとめず通り過ぎていく公園前をゆっくり歩いていると、公園周辺をぐるりと囲んでいる木々の隙間から、紺色の服がたくさん見えた。パトカーもいる。思わず気になって足を止める。 こんな人気の少ない公園で事件か。野次馬達の話を聞いていると怪我をして動けなくなった男性が倒れていたようだ。 好奇心から誰が喧嘩に巻き込まれたのか人混みの隙間から覗いた瞬間、全身の血管が凍り付いた。まさか、あれは。 そのまま急ぎ足でコインランドリーへ向かうと中に久坂さんがいた。 まるで佐倉が来るのを分かっていたように顔をあげる。前髪から垂れる水滴と色が滲んだワイシャツ。 「どうしたの、そんなに急いで」 「あの男の人、やったの久坂さんですか」 「そうだよ。どうしてそう思ったの?」 間髪入れず即答される。まだ男の人が誰なのかも説明していないのに。皮膚が熱く燃えて、予感が確信に変わる。 ぶつけた疑問をそっけない疑問で返されて喉が詰まるが、声を振り絞った。自分でも戸惑うぐらい佐倉は怒っていた。腹の奥で燻る怒りがなんなのか、もう"見ないフリ、分からないフリ"は使えない。 「せっかく、知らない風にしてたのに」 「だからだよ。どうせ気付いてるんだろ、君は賢いから」 佐倉の自転車に悪戯をしたあの男。男の背中を睨み付ける視線が常人の鋭さじゃないことに佐倉は気付いていた。 敵意を向けるのになれていて、左手がまともに動かなくなる怪我をする職業。一般人である佐倉にだってある程度は察しがつく。ついていたから見ないフリをしていたことすらもお見通しで。これだから年上って奴は何でもかんでも分かったフリをしてくる。知ったかぶって平気で嘘をつく。 「否定してくれてもいいんですよ。まだ嘘だって誤魔」 「佐倉君にこれ以上、嘘つきたくないんだ。だから本当の僕を見て答えてほしい。こんな僕でも君と友達になれるだろうか」 薄っぺらい言い訳に佐倉の何かが切れた。ぼろぼろの壁に囲まれた小さな室内。いくら二人きりとはいえ通行人が居たらどうする。当たり前の懸念を浮かべることすらできぬまま、佐倉は思いの丈を叫ぶ。 ーーーこんなにもアンタのことでいっぱいなのに今更友達で満足できるわけねえだろ!」

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