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早速踏み出せない

「どうしたんだ足立ー?帰らねえの?急に立ち止まってどしたー?」 「うんちょっと……」 友達の桜井君と一緒に校門を出たばかりなのに、俺の足が止まる。生徒たちが吐き出される校門近くの曲がり角に、見覚えのある黒い車が止まっていたからだ。 別に黒い車なんて大通りに出れば何台も走ってるというのに。気品のいい黒い光を放つ自動車。車にはあまり詳しくないけれど、なんとなく高いのは想像がつく。 きっとこの近くに用事があってたまたま停めているだけなんだろう。自分に言い聞かせながらも、足がすくんで動けなくなった。嫌な予感がひそかに脳髄を駆け巡る。 近づいてはいけない。俺の世界を瓦解させるような爆弾が積んでいる。まさか本物の爆弾ではないだろう。しかし、日常を崩壊するには充分すぎるものが、乗っている。 確証はない。確信はあった。 経験の差か。何度も命の危機に晒された者にしかわからない独特な危険察知能力。俺にはなぜか備わっているようだ。 駄目だ。今すぐこの場から離れないと俺が死ぬ。何らかの形で死を迎える。もしくはそれに近い何かが 「おっあれベンツじゃね?ちょっと近くいって見てみようぜ」 黒き死に向かって歩こうとする桜井君の腕を掴んだ。不思議そうに「どした?」と尋ねてくる。桜井君車に詳しいんだね。揶揄めいた言葉を生唾と一緒に飲み干し、そのまま逆方向へ走りだした。 逃げてしまえばこちらのもんだ。遠ざかれば爆発しても被害は少なくて済む! 全速力で避難しようとした俺の肩に突然力強い腕力がかかった。コンクリートに足がめり込みかける。いつの間に背後を取られていた!? 「どこに行くんですか」 この声は。絶望色に染まる視界。ああ、もう。時計は既にゼロを指し示していたようだ。

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