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とりあえず、まあそういうことで

やばいやばい。どんどん桜井君の顔が疑惑に染まっていく。スロー再生されてる映画を見てる気分だよ。 明らかに怪しまれている。首の縄が締まっていくようなこの恐怖。朝食べた目玉焼きをリバースしそうになった。 もし桜井君が俺の秘密、俺がヤクザの家の者だと分かればどうなるんだろうか。 皆に言いふらす?俺から離れる?そうなればまたボッチ生活が待っている。孤独が口を大きく開いて牙をぎらつかせていた。飲み込まれたら最期。一度しかない青春を謳歌できなくなる!安らぎがブロッコリーが入っていないお昼弁当だけになるのはまっぴらごめんだ! こんな馬鹿なことで俺の高校生ライフは終わるのか!? 夢見た友達とのマク●ナル●も、部活とか入ったり、かっ、彼女との放課後デートとかも泡になる!まだ彼女とかできる気もしないけども!できるわけないけども! 待て……まだあきらめるな。終わるまで俺は諦めない。 諦めたらそこで終わりだって名言にも残ってるじゃないか。俺が実行したっていう事実を今!刻みつけるんだ!終わりまで決して立ち止まらない!その瞬間、俺の脳内を鋭い雷撃が駆け抜けた。もちろん比喩だが、ひらめきという電流が竜のように荒々しく脊髄を激しく刺激する。 「しっ使用人……」 「え?」 「そうなんだよっ!こいつら俺の家の使用人なんだよ!」 両方共の腕を無理やり組んで、なれなれしさをアピールしてみる。突然の行動に両隣の大人たちはついてこれずに黙りこんでいた。いい感じだ。恐る恐る桜井君の反応をうかがう。真顔で「んな馬鹿なことほざくな」って言われたらどうしよう。 そんな俺の心配をよそに、桜井君は眩しいぐらいに瞳をキラキラさせて俺を凝視していた。 「使用人って所謂メイドさんとか執事さんとか!?すっげえ足立!お前大金持ちだったんだな!」 よしっ桜井君から疑いの気配が消えた。信じやすい人でよかった。ここで一気に畳みかけることにする。 「おう、そうなんだよ。いやあ、お父さんってばほんと心配性でさ!いらないって言ってた迎えまでよこすんだもん。おせっかいなんだよなー」 もう二度と、せめてしばらく使用人説を信じ込ませるために、俺は出まかせを吐き続ける。ごめん親父。地獄から俺を見守っててくれ。 「へー知らなかった!また遊びに行かせてくれよな!」 「もちろんだ!」 「あっ迎えがきたんなら、俺今日は一人で帰るわ!んじゃあまた明日なー!」 すべての疑いを払しょくした爽やかな笑みを浮かべた桜井君は腕を大きく振りながら帰って行った。気を使ってくれたのか。迎えが来たからってそんなに気を遣わなくてもいいんだけどな。 部外者って言い方悪いけど、桜井君が帰ってくれたので、俺は本当の俺をさらけ出すことができる。 「で?お前らなんで来た?しょうもねえことだったら覚悟しとけよ」 不本意だが、俺は足立千晴なんだ。どこまで行っても、こいつらとは縁が切れないんだろうな。今のままだと。

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