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今、お迎えに上がります
「近頃、千晴の通う高校付近に変質者が現れるという情報を手に入れた。もしあんなにも愛らしさを振りまく千晴が変質者の目にとまれば、襲われることは確実だ。襲わなかったら変質者は俺が殺す。ちなみに千晴は俺が襲う。ということでしばらくの間、千晴に迎えをよこしたい。誰か頼まれてくれる者はいないか」
どういうことなんだ。組員の心が一つに重なりった瞬間だった。
組長である菊次は静かな湖を思わせる端正な顔立ちとは裏腹に、存外なブラコンである。弟である千晴に対しての愛情は底なし沼より深い。下手に足を踏み入れると永遠に上がってこられなくなりそうだ。
父親が早くにこの世を去ってしまったせいでブラコンに拍車をかけてしまった誇り高き組長。当本人の弟は少し引き気味になっているのに、それに気づかない、気づこうとしない。例え気づいたとしてもツンツンしやがってと検討はずれな方向に解釈するだろう。
「どうした。誰もいないのか?天使のお迎え権をやろうというのに。遠慮しなくてもいいぞ」
菊次の言葉に、皆一斉にうつむいた。別に千晴のことが嫌いなわけじゃない。
もし帰ってくる途中に、万が一千晴に怪我を負わせてしまったら。生き地獄と例えるのに大袈裟ではない目に合うのは承知の上。
誰も危ない橋はスルーしたい。石橋は叩いて渡らなくてもそもそも見て見ぬふりをすれば一番安全。ミスをすれば落ちるのは自分だ。自己保身をまっさきに考えるのが人間であり、だからこそ、ここまで繁栄してきた。
「はいはーい。俺行きたいですー」
二酸化炭素に支配された一室で、自ら石橋に踏み入る男が現れた。
サングラスの奥でへらへらと笑う大柄な男。周りの男たちから頭一つ分抜き出ている男に、菊次は無感動な瞳を向けた。
「赤松か。急ぐ仕事は?」
「しばらくあぶねぇ仕事はありませーん。だから俺に任せてくださいくみちょー」
「……帰ってくる途中、間違ってもホテル街やらに迷い込まないようにな。まだ息をしていたいなら」
「わかってますよー俺も流石にそこまで強引じゃないですー」
なら赤松に頼むか。菊次がそう言いかけると、男たちの列から静かに手が上がった。
「私も同行させていただきたいのですが」
赤松の顔が突然の乱入者に思いっ切りひきつった。
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