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今、お迎えに上がります
「甲斐田も行きたいのか?仕事は?」
甲斐田はまっすぐあげた手を下ろす。なんの感情も張り付けていない無表情のまま前へ一歩踏み出した。志願兵かよ、と誰かがぼそりとつぶやく。
「はい。私も千晴様のお迎えに付き添わせていただきたい。業務はきちんとこなしますので是非。この馬鹿のせいで書類は溜まっていますが」
赤松と並ぶと甲斐田の身長は低い。だが落ち着いた物腰とこの業界で長く生きた経験のようなものが背丈を倍増させているように見えた。裏社会に長く浸っていると威圧感のようなものが自然と身につく。
「甲斐田さんいらないんでお帰りくださーい今すぐ回れ右してくださーい。坊ちゃんのお迎えは俺がやるんでー」
不機嫌を隠そうともせず赤松は舌打ちを響かせながら、横に並んだ先輩を押し退けようとする。失礼極まりない後輩を、甲斐田は静かに睨み流した。瞳孔がかっ開いているのに、口角は変わらず一の字を結んでいる。瞳だけ見開かれているので不気味な表情だ。
「赤松だけで行かせると、千晴様の安全が保障できないと思いましたので」
「あんたじゃないんだからさー俺はじっくり周りから攻めていくタイプなのー最初に天守閣から攻め落とさないでしょー?まずは城壁からじっくりと……」
「じっくりと千晴様の何をなにするつもりなんですかこのド変態!」
「誰も下ネタに流してないのにー!あんたはほんとぶれないねー安定の変態だー」
「あなたがそれを言いますか。夜な夜な千晴様のパンツ狙ってるの、私は知っていますよ」
「甲斐田さんだって坊ちゃんにされたいSMプレイについて夜な夜な妄想してるそうじゃないかー」
「まあ、関係ない話は後ほどじっっくり議論するとして」
自分から言い出したことだろ。苦々しく赤松は続けようとした下ネタを後ろ手に隠した。菊次の前でこれ以上下ネタトークをする勇気もない。胴体に風穴を開けるのにはまだ早い。
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