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今、お迎えにあがります
「もし何かあったとすると、赤松だけでは対処しきれないことがあるかもしれません。念の為に私が同伴するのが安全に安全を重ねた良案だと思います」
淡々と口を動かす甲斐田の意見に、菊次は成程と頷いている。長らく足立組に仕えてきた甲斐田の言葉は、菊次がちゃんと耳を貸すぐらい重い。
千晴のことになれば思考回路が狂うが、基本甲斐田は冷静で頭が切れる男だった。客観的に物事を見据え、さまざまな角度から条件を確認して一番いい妙案をたたき出す。組織では必要不可欠な頼れる男である。
なぜ千晴がいるとあそこまで残念になれるかは一生の疑問だ。色々と残念な男だった。多分死ぬまで残念であり続けるに違いない。
「えー甲斐田さんもし何かあったら俺だけじゃ足りないって言ってるのー?」
赤松は不満げに唇を尖らせる。遠まわしにお前だけじゃ戦力不足だ宣言されて大人しくさがれる赤松ではなかった。
「俺のほうが喧嘩強いしーなにより坊ちゃんに嫌われてる甲斐田さんなんか来ちゃったら怒られちゃうよー!俺ならその心配はないしー帰り際パフェ食べてくるだけだってー」
赤松は挑戦的な視線を上から送る。
「不満は実力つけてから言ってください。やっぱりこいつだけでは心配なので私も行きます。どうせ車持ってないでしょう」
しれっとストレートに言い直す甲斐田。今度は赤松と眼も合わそうとしない。ただじっと床を見つめていた。
「なに?ちょっと年上だからって見下さないでくれるー?なんならあんたより実力はあるって証明してあげようか?」
むっとやや苛立った赤松の眉間に皺が寄ったところで、菊次が手を叩いた。
ここで菊次が止めに入らなければ、大乱戦の火蓋が落とされていただろう。場の見極め能力は菊次に備わっていた。
「もう面倒くさいから両方行け。そうすればいいだろ」
下らない議論に飽きた菊次が投げやりに言い放つ。
「だが、千晴が綺麗なまま帰ってこれなかったら、お前らの大事なイチモツ捻りちぎるから覚悟しとけ。俺はやると言ったらやる男だぞ、いいな」
「はーい……」
「承知しました」
一瞬即発モードだった二人は、やや震えながら同時に返事をした。気まずい距離感の中車に乗り込んで千晴を迎えに行くまで残り数十分。
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