26 / 40
魔性masochism
「うるせえ!俺に近づくなドエムっ!」
肉を打ち付ける鈍い音が廊下に響いた。
「あっ………」
やべえ!本気で殴っちまった…!
自分がやった行為に声にならない呻きをもらす。流石に罪悪感がこみ上げてきた。
いや殴られて当然のことをされたけども、この後味の悪さやばい。俺は思いっきり顔を歪めた。
のけぞったまま甲斐田は動かない。ストレートに頬に吸い込まれていった。
自画自賛するぐらい綺麗な右ストレートだったよな?めっちゃじんじんするもん!超痛いもん、俺も!痛み分けってことで勘弁してくれないかな?無理ですよねーそうですよねー。
流石に怒ったよな?ちらりと甲斐田を窺う。
ゆっくり上体を起こした甲斐田は無表情だった。普段通りなんだけど、それが今はとても怖い。口の端が切れて血が滲んでいる。
俺のパンチなんつー破壊力だよ!成長したな俺!ふぅ!喜んでる場合じゃない。多分完全に油断していたから思いのほかダメージが入っただけだ。
沈黙がとても辛い。泣き出しそうになったが、プライドが抑え込んでくれた。
普段殴ってください殴ってくださいとほざいてるけど、年下に殴られて、怒ってるよな?憤怒した甲斐田の逆襲を考えただけで嫌な汗が流れる。
こっちは高校生あっちはヤクザ。取っ組み合いになったらどっちが有利かなんて、馬鹿でもわかるわ!
いくら変態的行為をされようとも甲斐田に手を出したのは俺だ。つまり俺が悪い。悪いことをしたら謝る。単純な三段論法だったけど、俺は素直に行動することができなかった。
ともだちにシェアしよう!