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魔性masochism

「いいパンチでしたよ。どさくさに紛れて舐めていればよかった」 「安定の変態!?」 告げられた感想に顎が外れそうになる。てかぶん殴られといてなんで相手をほめてるの?意味がわからん。もう大人が理解不能だ。いやこいつが特殊なのかも知れんが。てか絶対特殊。一例を見ない特殊例。 痛みなんて感じてなさそうな顔で殴られた頬を掌でこすっている。 戸惑う俺をじっと見つめてくる瞳に怒気は浮かんでないけど、心中ではどう俺を八つ裂きにしてやろうか考えてるんじゃないか?天使と悪魔がささやき合ってるんじゃねえの?疑り深い性格なんだよ。 なので甲斐田の口から本音を聞かないと落ち着かない。ちょっとだけ震えながら彼の端正な顔立ちを見上げた。 「本当に、怒って、ない?」 「怒ってませんよ。むしろ喜んでます」 見てくださいこの満たされた笑顔。 そう言われても、変わらぬ無表情なんですけど?喜んでるのそれ?どの角度から見ても恐ろしいほどの真顔なんだけど、甲斐田なりの笑顔なの?食い入るように観察してみる。口角が2ミリほど釣り上がっているような気がしないこともない。 いやよくわかんねえよ!表情筋さん返事してください! 叩きつけた叫びに「そうですか」とそっけなくコメントされる。なんかすごい腹が立った。 「よかった……っていうのもおかしいけど……その、ごめんなさい……」 「謝らないでください。少々私もしつこすぎました。こちらこそ申し訳ございません」 お互い頭を下げあって妙な空気が生まれたけど、丸く収まったかな?よかったー。こぼれおちかけていた涙はあっさり引っ込んだ。都合がいい涙袋である。

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