30 / 40
魔性masochism
甲斐田は甲斐田なりに俺のことを案じて譲渡してくれたんだろう。
本当はデコピン一つでも嫌だろうに。組長の弟に危害を加えるのはそりゃ嫌だよなー。
そう考えると、申し訳なくなった。でも提案は取り消さない!双方とも何のしがらみもない状態でいたいからな!デコピンなんて軽すぎる!
「力抜いて誤魔化そうたってそうはいかねえぞ」
目を閉じて待つ。甲斐田のことだ。適当にやって終わらせようとしてるんだろうな。
そういうと、息を詰まらせる気配がした。本当に弱くするつもりだったらしい。釘さしてよかった!馬鹿野郎!ケジメにおかしなやさしさなんていらねえんだよ!変なスイッチが入っている俺。この前見た漫画の影響か。
本気と本気の力をぶつけ合ってこそ中和されるってもんだ。これぞ男気!今初めて自分が荒々しい家系の人間なんだなーって思い知らされた。だが止まらないのが男ってもんだろう。って二巻の最後のページに書いてあった!
「手加減は許さない!本気でこいや!」
「貴方って結構マゾっ気あります?それでは、少しばかりご無礼を」
「はっ!お前ごときのデコピンなんて痛くも痒くも―――ふげェッ!」
甲斐田のデコピンが俺の額ではじけ飛ぶ。暗い瞼の裏側に光が散らばっていった。一瞬、とてつもない痛みが広がった後にじわじわと滲む激痛。タンスの角に小指ぶつけた瞬間より後のほうが地獄を見るのによく似ていた。
本当に指で弾いたの?俺が目を閉じてるのをいいことに石でも投げ付けたんじゃないの!?
小隕石並みにインパクトと衝撃が降り注いだのと同時に、俺の意識はあっさり消えていった。流石変態でもヤクザ。指先の腕力も伊達じゃない。強すぎるし、俺、弱すぎだろ…。
目を覚ましたら俺の部屋だったり、甲斐田が何故か傷だらけの状態で土下座してたことなんて、もうどうでもよくなった。
ともだちにシェアしよう!