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食後しばらく休憩した後、のんびりと準備した俺たちは、俺の運転する車にのって、海へと向かった。30分ほどのドライブは、道中のカフェで買ったコーヒーを飲みながらセルジオと話しているとあっという間だった。
人の殆どいない砂浜に到着した俺たちは、手を繋いで砂浜に座った。波の心地よい音と、太陽の光を反射する波のきらめきは、なんだか非現実的だとさえ思うほどに綺麗だった。
「綺麗だなー、やっぱ自然ってすごいよ。別にさ、アンドロイドとか科学技術を否定するわけじゃないけど、神様が作った自然のものが1番美しいと思うよ。こういうのが感じられるから、自然は好きだ。」
「そうだな……心が洗われる感じがする。」
「……そのままお前のサディズムも洗い流してもらって」
「はははっ、俺はただお前が沢山感じてるのを見るのが好きなだけだよ」
「……っ、それでもドエスすぎるんだよ!」
くだらない会話を紡ぎながら、手を繋いだまま立ち上がって海岸を歩き始める。陽が大きく傾き始めたこの時間帯、もう少し時間を潰せば、夕焼けを観られる。
ゆっくりと歩いていると、セルジオが問いかけてきた。
「お前、最近仕事はどう?社長とはうまくいってるのか?」
「まあ、普通かな、社長はちょっと変わった人だけど、ちゃんと仕事さえしてればとくになにも言われないから」
「そっか。そういえば、なんかお前のとこ社長ってアンドロイドマニアだって聞いたけど本当なの?」
「本当だと思う。お金は余るほどあるだろうからね。新しいタイプが出るたび購入してるって聞いたことある」
セルジオは興味を引かれたように質問を続ける。
「その社長ってやっぱ、ヒューマノイドとかも所有してるのか?」
セルジオは、街中で労働力として使われるアンドロイドは見たことがあっても、人格を持ったヒューマノイドは見たことがないのだろう。
「ああ、持ってるよ。職場にも何体かいて、社長にお茶入れたり……とかしてる。」
社長のヒューマノイドの扱いは、とても良いとは言えないから、なんとなく歯切れの悪い返答をしてしまったが、セルジオは特に気にせず続けた。
「そうなんだ。やっぱヒューマノイドって人間っぽいの?」
「いや、実際はそうでもないかな。人工知能搭載してるって言っても、結局はプログラムされてるものだから、人間らしいかと言われるとそうでもないかな……タイプにもよるけどね。性格も、単純にカテゴライズできる感じだよ。」
セルジオは、初めて聞く話に真剣に耳を傾け、最後に自分の見解を述べた。
「恋人タイプとかもあるらしいけど、やっぱ俺には理解できないなー。自分の好きなように性格とか見た目カスタマイズして、セックスとかするんだろ? やっぱり俺は普通に生身の人間と付き合いたい」
「そうだな、俺もそう思うよ。」
ゆっくり会話をしながら時間を潰したおかげで、目の前には、太陽が海へと沈んで行く夕焼けの景色が広がっていた。赤とも紫ともつかない絶妙な色合いを湛え、少しずつ変化する空は、息を呑むほど美しい。
「はぁ〜すごい。 こんな綺麗な景色、初めて見たかも」
「そうだな、ほんとに、綺麗だ。」
広がる景色よりも、釘付けになっているセルジオの瞳に反射する夕焼けに、俺は魅入っていた。彼の翠の双眸に紅い夕焼けの色が混じって、複雑な色彩が映し出されている。
美しい景色に瞳を輝かせるセルジオに、儚さを感じた。どうしてだろうか、ふと彼がいなくなってしまうような、不安に襲われる。
きっとあまりにも幻想的な景色に影響されたんだろう、と無理矢理結論づけつつ、セルジオをそっと抱き寄せる。それでも彼は視線を離さず、眼前に広がる夕焼けと煌めく海を、目に焼き付けるように見つめ続けた。
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