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18 :オズワルド視点

ピ、ピ、と周期的に鳴る機械的な音がやけにうるさくて、意識は強制的に覚醒させられた。重い瞼を開けて、最初に目に入ったのはぶら下がる沢山のチューブだった。状況が飲み込めず、辺りを見回そうと思ったが固定されているのか、頭は動かなかった。眼球だけを動かし、周囲を観察していると、聞き覚えのある声が響いた。 「オズワルド! 目が覚めたのかい!ああ……よかったっ……」 隣の州にいるはずの母が、涙を流しながら、俺の顔を覗き込んでいた。 「え、かあさん……?どうしたの?」 どうしてこんなところに母さんが?というか何故泣いているんだ? 「どうしたって……事故に遭ったって聞いて急いできてみれば、生死の境を彷徨ってるし、一命とりとめた後も、1ヶ月も寝こけてたのはあんたじゃないか」 母は、泣きながら答えた。未だぼんやりする頭の中で事故、と反芻すると、あの時の衝撃が脳裏で蘇った。 「セルジオは!? セルジオは無事か?」 何が起こったのか理解した俺が一番気になったのはセルジオの安否だ。叫ぶようにして母に尋ねた俺の目に、彼女の苦しそうな顔が写った。その表情は……何を表している? いや、きっと大丈夫。セルジオは無事だ。 表情から察した結末が、嘘であると信じたい俺に、母は、少し躊躇った後、意を決したように話し始めた。 「オズワルド、落ち着いて聞きなさい。あなた達は、後ろから来た車に衝突されたの。セルジオ君も、あなたと一緒に病院に運ばれた。けれど、だめだった。彼は助からなかった。もう、お葬式も済んでるの。親族のいなかった彼の葬式はうちで執り行って、彼は沢山の友人に見送られた。今回の事故はとても残念なことだわ。でもね、あなたのせいじゃない。 最後まであなたと居られて、彼は幸せだったと思うわ」 母の言葉に、絶望した。セルジオが死んだ? そんなこと……信じられない。どうして、俺だけが生きているんだ? 彼が死ぬなら自分も一緒に死にたかった。 1人になりたい。でないと、爆発したように溢れ出す想いを母にぶつけてしまう。 「……っ、ごめん、母さん。少し1人にしてくれ……」 抱きしめるように肩をさすろうとした母を振りほどいて、俯いた。母が出て行き、病室のドアが閉まったのを見届けた瞬間、堰を切ったように涙がこぼれ落ちた。 嘘、だろ。セルジオが、死んだなんて、信じたくない……信じられない。もう彼に会えないのか? いや、そんなこと、ありえない……。 彼に、会いたい。今すぐセルジオに会いたい。どうして一人で行ったんだ? もう二度と会えないなんて、絶対に耐えられない。こんな風に離れ離れになるなら、俺も一緒に死にたかった! とめどなく溢れる涙は止まらない。手のひらで覆ったまぶたの裏に、セルジオとの思い出が走馬灯のように流れ始めた。 ……もう会えない。お前の声も聞けない、笑った顔も、泣いた顔も、怒った顔も、蕩けた顔も……二度と見れない。あの翠の瞳と見つめ合うことは二度とない。 抱きしめることもキスすることも叶わない。 そんなふうに思うと、どの思い出も悲しいものになってしまう。事故に遭う直前に二人で見た夕焼けは、あんなに綺麗だったのに、今思い出すとモノクロだ。 あの日デートに行かなければ。あのときもう少し長く砂浜にいれば。もっと周りに注意していれば……どうしようもない後悔の念が押し寄せてきた。

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