28 / 33

28 :オズワルド視点

使命を見つけてからの立ち直りは、自分でも驚くほど好調だった。ふとした時にセルジオの喪失を実感し、涙が出ることはあっても、死にたいとか消えたいと思うようなことは無くなった。 何をするにもまずは普通の生活を送らなくては、と思い、なるべく以前と同じような生活を心がけた。 社長秘書として勤めていた会社にも連絡した。秘書という仕事上、事故から2ヶ月も経っているため、すでに後継者がいるだろうと思っていた。不在に対する謝罪と今までの礼を言うために連絡したのだが、事情を把握していた社長は、待っているから落ち着いたらいつでも戻って来い、と電話口で笑った。 待っていてくれたからには、すぐにでも復帰して社長に貢献したいと思った俺は、電話の翌週から職場復帰している。家にこもっているよりも、毎日決まったルーティーンで勤務している方が精神的にも落ち着いた。仕事に集中することで、不意に悲嘆に暮れることも少なくなった。 そんなふうに少しずつ日常を取り戻していった俺は、事故についての情報収集も始めた。しかし、こちらは想像以上に難航している。 どんなに調べても、あの事故の情報は殆ど見つからないのだ。死者が出るほどの大きな事故だ。何も報道されていないのは明らかにおかしい。情報操作が行われているのだろう。 そんな状況の中、唯一見つけられたのは、マイナーな地域新聞の記事1つだけだった。 ===== 今日もいつも通りの時間に出勤した。 秘書事務にとどまらず、情報収集など様々な仕事を任されるためか、社長は俺に個室を与えた。社長室のとなりに位置するその秘書室に入り、まず通信デバイスを起動させ、何か重要な連絡が来てないかをチェックする。新着メールが一件。さっき届いたばかりの様だ。開いてみると、社長からだった。 “今日と明日も欠勤だ。悪いな” そんな短い文章が目に入り、思わずため息をつく。 「……またスケジュールがずれる」 社長がサボりはじめて、今日で2日目だ。一体何をしてるんだ、と考えながら、自分の分のコーヒーを淹れる。ヒューマノイドを多く所有する社長は、お茶汲みの様な雑務は、それらにやらせていたが、朝一番のコーヒーはいつもオズワルドが淹れていた。 社長は有能だ。まだ若いというのに、この製薬会社を設立して数年で、国中が知る大企業に仕立て上げた。変わり者であるのは確かだが、彼を尊敬している。 ……幸い、立て込んだ用事もないし、急いで社長に回さなければいけない案件もない。おそらく彼はこれも知っていてサボっているのだろうし、まあいいか。 自分も今日は早めに退社して、事故の件について調べる時間を取ることに決め、日常的な一般業務に着手した。

ともだちにシェアしよう!