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エミリーは慰めるように優しく俺の肩を叩くと立ち上がった。
「ついて来なさい」
エミリーは編集室と書かれた部屋へ入っていった。彼女は、部屋の隅にしゃがみこむとごそごそと何かを取り出す。どうやらそこには金庫がある様だった。
「本当はこういうの、いけないんだろうけど。お前さんにこれを渡そう。事故が起こってすぐの頃は今よりはまだ情報が出回っていた様でね。これは彼が残していった資料だよ」
資料の束が差し出された。
「彼はこの事件が原因で姿を消したのかもしれないからね。おまえさんも、くれぐれも気をつけて」
緊張感の漂う眼差しを向けられたので、心持ち姿勢を正し頷いた。
「エミリーさん、ありがとうございます。きっと、事件の真相を突き止めてみせます」
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帰宅してすぐに資料に目を通した。
記者は事故の直後に現場を訪れたのか、大破した車の写真があった。まずは自分たちの車が写った写真を眺める。俺達が乗っていた車に、斜め後ろから助手席の方に向かって衝突している白い車を見つめる。この車の運転手を恨めたらどれだけ良かっただろう。今回は彼も被害者なのだ。恨みの矛先を向けるべき人物はまだ謎に包まれたままだ。
事故に巻き込まれた車は全部で5台。どの車も、違法な改造などはされていなかったようだ。つまりこれは個人が起こしたものではなく、交通局の自動運転システムによる事故だ。
事故は全てあの一画で起こっていた。車同士の接触が二件、もう一台はガードレールに衝突していた。どれも凄惨なもので、ブレーキが効いていた様子は無い。衝突される側だったので、今まで気がつかなかったが、ブレーキが効かず、コントロールできなくなった車で真っ直ぐ突っ込んでいくのは相当な恐怖だっただろう。
他の資料には被害者の人数が書かれていた。被害者の総数は8人。死者は4人。そのうちの1人は、頭部外傷がひどく救急車が到着した時にはすでに亡くなっていたという。残りの3人は内臓損傷などの重体で搬送されたが、のちに心肺停止が確認されたと記されていた。これにはセルジオも含まれているのだろう。
こんなに犠牲者が出ている事故をもみ消すことが出来る団体は限られてくる。国か、もしくは政府と結託している大企業か……そんなものだろう。
この事故は単なるシステムの不具合か? ……不具合ならばここまで念入りに情報を規制して、口封じに人を消すことまでするだろうか? しかし、故意だったとして目的は何だ? ……わからない。自分は今も、少なくとも普通の生活が送れているし、死んだ者からは何も得られないだろう。箝口令を敷いているから人々の反応を見たいわけでもない。誰かの暗殺か? いや、だったらこんなに大掛かりにする必要はない。
いくら考えてみても納得のいく答えは出なかった。1番手っ取り早いのは交通局に問い合わせることだろうが、記者が1人消されてる今、大きな権力を持つ機関に関わるのは危険かもしれない。
その他の資料を見ても、いかに事件の被害が大きかったか、というようなことしか分からない。せめて、被害者の個人データがあればまだ手段はあった。搬送先しかわからない今、個人情報の保護が重視されているこの社会では生存している被害者に会うことすらも難しいだろう。
またしても八方塞がりになってしまった。これからどうするか夜通し頭を悩ませたが、進展はなかった。
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