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31 :セシル視点

「初めまして、セシルくん」 そう言って、貼り付けたような笑顔を浮かべる男は僕に握手を求めた。 この人は、エシリルというらしい。今日は検査があるから、とヘイデン様に連れてこられたのがここ、ヒューマノイド研究だった。 僕の記憶の始まりは、昨日ご主人様に起動してもらったとき。でも、事前にインストールされていた知識で、ここで自分が開発されたということはなんとなくわかる。わかっていたからこそ、ここに来るのが怖かった。もし不具合が見つかったら、せっかく起動してもらったのに、またこの研究所に戻されてしまう。そう思うと食事が喉を通らなくなるほど恐ろしかった。 震え上がる僕に、ヘイデン様は、「たとえ不具合が見つかったとしても、お前を研究所に戻したりしない」と言ってくれた。その言葉にスッと心が落ち着いて、僕はなんとかここまで来ることが出来た。 ヘイデン様以外の人に会うのは初めてで、少し緊張する。ヘイデン様が頷いたのを確認して、差し出された手を握った。 握手の後すぐに、僕はヘイデン様の隣にくっついた。やっぱりご主人様の側が一番安心できる。貼り付く僕を宥めるように、大きな手が僕の頭を撫でた。 エシリルさんに先導されたのは彼の研究室だった。色んなものが散らばっていて、整頓されているとは言い難い。 僕らに椅子に座るよう促し、自分も椅子に座ると彼は話し出した。 「今日は簡単なチェックを行いますね。まあ大丈夫だとは思うのですが、最初は基本動作と言語理解がプログラム通り出来るか確かめましょう」 腕を上げて、立ち上がって、飛び跳ねてみて……など、簡単な指示を出された。特に難しいと思うものもなく、それに従うと、比較的早く言語理解のテストに移行した。 「セシルくん。昨日は何をしたか、話してみてくれる?」 今度は僕がちゃんと筋道を立てて話せるかをチェックするんだろう。これもきっと大丈夫。 「はい。昨日は、ご主人様に起動してもらった後、まずお屋敷を案内してもらいました。大きいお屋敷で、お部屋が沢山あってとても楽しかったです。それから……ご主人様の寝室を見せてもらって、それで、えっと……」 そのあと、ご主人様とエッチなこと、した……けど、会ったばっかりの人にこんなこと、言えないよ。ちゃんと話さないといけないのに……どうしよう。 恥ずかしくなって俯いたとき、ふふっとエシリルさんが笑った。 「言語も問題ありませんし、感情の方も、ちゃんと機能してるみたいですね」 エシリルさんは、僕が昨日何をしたか、わかっちゃったのかな……それはそれで恥ずかしいけれど、自分から言うよりは恥ずかしくない、気がする。

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