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第9話《お父さん》
待ちに待った父親が帰ってくる日の前日…。
毎回、儀式のようにあることがおこなわれる。
由里は義母と義祖母の前で全裸にされ、傷痕をひとつひとつ確認させられるのだ…
「肘と膝と腕の怪我を聞かれたら?」
義母の尋問めいた声…
「学校の体育の時間に転びました…」
静かに答える。嘘の答え…
「この背中の痕がきえてないねぇ…」
押さえ付けながら言う祖母…
背中には青く痣になった線が幾すじか痛々しく残っている。
「っ…」
痛みに耐えながら義母の言葉を待つ由里。
「もし聞かれたらこう答えなさい、納屋で遊んでいたら農具が倒れてきて背中を打った、いいわね?」
睨みながら言い聞かす義母…
「…はい」
頷く由里…
「言ってみなさい」
続けて言わす義母。
「納屋で遊んでたら農具が倒れてきて背中を打った…」
言われた通り答える。
「そう、じゃいつもの決まりごとを言って」
命令口調で全裸の由里に言わす。
「…いち、お父さんに甘えない、に、お父さんに心配をかけるようなことは言わない…さん、お父さんの前で転んで見せる、よん、絶対にいっしょにフロに入りたいと言わない…ご、お義母さんたちに優しくしてもらっているという…」
「くれぐれも破らないように、いいわね!」
髪を掴んで脅すように言う義母。
「はい」
逆らうことなんか出来ず、頷く由里。
「とっとと行きなさい」
「はい、おやすみなさい…」
冷たい言葉にも、きちんと挨拶して服を持って部屋へ行く由里。
服を着ながら…
明日が来るのが嬉しくて仕方ない由里。
明日になれば父が帰ってくる…それがなにより楽しみ。
たとえ嘘をつかされようが…恥ずかしい思いをしようが…
我慢できるから…
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