10 / 129
第10話
そして、翌朝……
今日は、待ちに待った父が帰ってくる日。
嬉しさを隠しきれず…早くから起き出して時間がくるのを待つ由里。
父は、昼前に帰ってくる予定…
いつもやらされている労働も罵声もなく、時が過ぎる。
ゆっくり進む時計のはりが11時を回ったころ…
「ただいま」
ガラっと引き戸の玄関を開きながら、大好きな父の声が響く…
その声に慌てて部屋を出る由里…
「お父さん!」
駆け寄りたい気持ちをぐっと堪え、父が来るのを待つ…
父のすぐ近くには義母がいて父を迎えているから…割り込んではいけない。
「おう、ヨシヤス…元気だったか?」
部屋に上がりながら父は笑顔で由里に話し掛けてくれる。
「うん、おかえりなさい、お父さん」
由里に久しぶりの笑顔が戻る。
「あぁ、ただいま」
由里の近くまで来て頭を軽く撫でる。
由里の父は身長180㎝以上あり、顔もかなり美形……
そんな優しくてカッコいい父は、由里の憧れの的だった。
「どれどれ、よっ」
父は不意に由里の両脇を持ち、抱え上げる。
「わっ…」
小学低学年くらいの身長しかない由里だから…軽々持ち上げられる。
「うーん、前とあまり変わらない気がするなぁ…ちゃんとメシ食ってるか?」
体重を確認しながら首を傾げる父…
「う、うん…」
「この子、好き嫌いが多くて…困ったものだわ」
義母がすかさず近づいて来て会話に入る。
「そうか、ヨシヤス、かあさんが作ってくれたものを残すのは良くないぞ、世界にはな、食べたくても食べれない人たちが沢山いるんだからな、食べ物は粗末にしないこと、いいな…」
義母の嘘を信じて父はヨシヤスを床に下ろし優しく教える。
「はい…」
頷くしかできない由里。
この義母から満足にご飯を食べさせてもらっていない…などと口が裂けても言えないから…
「典之さん、食事の支度ができているから食べます?」
うまく誘導する義母…
「あぁ、そうだな、いただこうか、ヨシヤスも一緒に食べよう…」
座敷のテーブルのまわりに腰を下ろす父…
「はい」
ともだちにシェアしよう!