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第19話

「あぁ、分かってる。行ってくるな!」 父は爽やかに笑って行こうとする。 「…っ」 不意に由里はお腹を抑えてうずくまる。 「ヨシヤス?どうした?腹が痛いのか?」 父は心配して由里に触れる。 極度のストレスから…腹痛を起こしてしまったのだ… お腹の中心を握り潰されているような痛み… 立っていられなくなった由里だが… 「お父さん…大丈夫、お仕事、頑張って…」 父の優しい腕に触れ、温もりを噛みしめて言う由里。 引き止めることなんか出来ない… 自分達のために遠くへ行って働いてくれている父だから… 「あぁ、本当に大丈夫か?あとで医者にみせてやってくれ」 由里に優しく言って義母へそう頼む父… 「えぇ、わかったわ」 そう優しく微笑む義母… 嘘の微笑み… どんなに高熱がでようと、医者に連れていってくれたことなどないのに… 「すまないな…いつも一緒にいてやれなくて…」 屈んで由里の顔を覗きみながら優しく言う… 続けて… 「出来るだけ早く帰ってくるからしっかりな…」 背を撫でて…元気づけてくれる。 「うん、いってらっしゃい…」 頷いて心配かけないために微笑む由里。 思っていることとは違う行動をする… 幼い頃から演技することを覚えて… 「あぁ…じゃ」 名残惜しそうに…優しく頭を撫でて出掛ける父。 義母は外まで見送りに出ていった…。 ひとりうずくまる由里… 「っ…ぅぅ、」 腹痛も手伝って大粒の涙が零れ落ちる。 行かないでほしい… そばにいてほしい… ほんとうは… 思うことも伝えられない… 由里は涙を拭って、痛むお腹を抑えながら部屋に戻ろうとする。 ここにいると、戻ってきた義母に邪魔だと言われるから… よろめきながら歩く由里に…後ろから冷たい声が浴びせられる。 「待ちなさいよ、なんなの、今のは…」 「えっ…」 由里はビクッと身体を震わせて振り返る。

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